クラフトワークが、ツール・ド・フランス100周年を記念して、12年ぶりの新作『Tour De France Soundtracks』をリリース。まだまだ現役の御大たちにインタビューを敢行!
ラルフ・ヒュッター、大いに語る

クラフトワーク。シングル“Expo 2000”こそあれ、フル・アルバムとしては実に12年ぶりとなる『Tour De France Soundtracks』が〈ツール・ド・フランス〉100周年の今年、ようやくリリースされた。正直なところ、待望感はなかった。私が彼らの音楽に触れた時、彼らの音楽はすでに崇め奉られていて、現役感もなかったからだ。だけど、今回のアルバム、あるいは遡って『The Mix』以降の彼らは、〈電子音楽の大御所〉というよりも〈いまの時流に沿ったテクノ/ハウス〉的な捉え方をすべきなのでは? 世間のイメージ以上に、彼らは世の流れに敏感だと思うのだけど?
「そのとおり。いい意見だ。クラフトワークの音楽はいつの時代でもクラブに根付いていたし、産業都市と密接な繋がりを持っていた。われわれは世界中でライヴを行い、テクノ発祥の地とも呼ばれるデトロイトでも、この30年の間に何度もプレイした。おかげでデトロイトにも友人ができ、いまも時間がある時はクラブに足を運ぶようにしている。ハウスにしてもテクノにしても、クラフトワークと近いところにあるんだ」(ラルフ・ヒュッター:以下同)。
ある種のテクノ・ミュージックが備えたミニマル・ダブ感覚にも通じる雰囲気……それが新作における興味深いポイントだけど、「特に意識して聴いているものがあるわけではないんだけど、頻繁にクラブに行っている結果だと思う」と語るように、彼らの側から若い世代の音楽に影響を受けている部分も少なからずあるようだ。それにしても今回久々にアルバムを作った理由は何?
「まず、83年にわれわれは“Tour De France”という曲を出した。アルバム用のコンセプトがあって作ったが、アルバムの完成には至らなかったんだ。次の『Techno Pop』(改良の後に『Electric Cafe』としてリリース)に取りかかってしまってね。だから『Tour De France』というアルバムに向けた、未完成の楽曲やアイデアはずっと残っていたんだ。われわれは自転車の大ファンで、趣味として頻繁にサイクリングしている。だから、私の頭には、常に『Tour De France』があった。その間にわれわれのライヴ機材はすべてデジタル化され、“Expo 2000”の頃にはコンピュータ・プログラムをさらに活かしたデジタル・モバイルなものに発展していた。いまや、われわれはラップトップで完全なモバイル化に成功しているんだ。そして2003年が〈ツール・ド・フランス〉の100周年ということもあって、今回こそ完成させようと決心したんだ。それが直接のきっかけだよ」。
その入れ込み具合は収録曲に対する細かなコンセプトからも窺える。
「アルバムは〈ツール・ド・フランス〉とそれにまつわるさまざまな側面のサウンドトラックだ。自転車は基本的にあまり音を立てない乗り物だが、滑走し、車輪が回転する動作に伴う音が象徴的だ。それに〈呼吸〉のように人間の肉体的な動作も伴う。だから、私たちは呼吸音を追求した。そして、メディカル・チェックは非常に競技と関係が深いから、医療施設の協力を得て、心電図(Elektro Kardiogram)から私の心音を録音してもらい、それと呼吸音を組み合わせてドラム・パターンを作ったのが“Elektro Kardiogram”なんだ。こういったアイデアの数々に今回はこだわったよ」。
ほかにも“Vitamin”は「栄養補強に必要なビタミンA、B、C、Dをモチーフにしている」そうだし、“Titanium”は「自転車を作る3大原料素材……チタン、カルボニウム、アルミニウムという〈物質的な素材〉をイメージしている」のだとか。そんなこだわりの一枚を完成させてどんな気分?
「ようやくレースが終わって、いまは少しほっとしている。そして新たなエネルギーを貯えているところでもある。2週間後にはみんなで競技用自転車を持ってアルプスへトレーニングに出かけ、秋~冬に予定しているツアーへの体力作りに励むつもりだ。その後は、次のアルバムに取りかかるよ」。
そんなグループの歩みを乗り物にたとえると何になるのかしら。
「やはり競技用自転車だろう。個人の力を発揮する場であると同時に団体競技でもある。サイクリングの本質がチーム精神と個人の能力の双方に則っていて、お互いは上手く作用し合わなければいけないものだからね。また、自転車は常に前へ進むものだ。クラフトワークと同じようにね」。
上手くまとめてくださいました。
▼クラフトワークの定番。
▼いまこそ聴きたい〈デジタル化〉後のクラフトワーク盤。

“Expo 2000”のヴァージョン集『Expo Remix』(EMI)