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第22回 ─ 魅惑の世界へようこそ。〈ロックンロール・モンスター〉が大集合!!

連載
360°
公開
2003/05/08   12:00
更新
2003/12/18   18:41
ソース
『bounce』 242号(2003/4/25)
テキスト
文/村上 ひさし

マリリン・マンソンが導く、世界のロックンロール・モンスター・ツアー。魅惑の世界へようこそ!


「子供の頃からハロウィンが一年にたった一度しかないのが不満だったんだ」というマリリン・マンソンは、人々を驚かせインパクトを与えることなら、なんでもやってやろうという人だ。反キリスト教のスーパースターを名乗ってステージ上で聖書を破り、疎外された両性具有のエイリアンとなってお茶の間を混乱させ、全米ネットのTV番組でオシリを出して吐き気をもよおさせるくらいのことならへっちゃら。〈ドラッグは好きじゃないけど、ドラッグのほうが俺を好きなんだ〉なんて歌(“The Dope Show”)を、しゃあしゃあと歌ってみせる。そのほか楽屋裏やツアー中の恐ろしい〈実験行為〉の数々は、自伝「地獄からの帰還」のなかに詳しく記載されている。そんな彼が今回、ニュー・アルバム『The Golden Age Of Grotesque』のために選んだテーマは〈1930年代のベルリンとハリウッド〉。いまやハリウッドに住居を構える彼が、ハリウッドの幻想や名声に魅せられてきた事実は、マリリン・モンローから取ったその名を見ればあきらか。もうひとつのベルリンに関しては、こんなふうに語ってくれた。

「人々はよくベルリンという街を女性に例えるよね。どことなくよそよそしくて、支配するのが難しいところが。あの街からは、とてもパワフルな芸術が多く生まれた。映画にしても舞台にしても。あまりにもパワフルすぎて、人々は恐れをなして破壊しようとしたほどさ」。

 そのベルリンの何に彼が魅せられたのかといえば〈グロテスク〉。決して美しい世界ではないが、その退廃的な文化こそが、いまの世の中には必要なのだと彼は言う。

「グロテスクとは、イマジネーションを駆使し、芸術や自然のなかから非日常的なものを生み出す行為。どうしてもネガティヴなイメージで捉えられがちだが、僕はずっと以前から惹かれていたよ。当時(30年代)のベルリンでは、さまざまな退廃芸術が生み出されていた。たとえば表現主義の画家たちは、実際に存在する風景を描写するのではなく、頭の中で想像したものを描き始めた。パフォーマンス・アートにしても、ヴォードヴィルやバーレスク・キャヴァレーやシアター・オブ・グロテスクなどは、すべてグロテスクなものを見せることで、日常生活上のグロテスクな現実を忘れさせようとするものだった。当時は開戦前夜で、人々は恐れのなかに生き、絶望感にまみれていたからね。皮肉なことに、過去について書いてるつもりの曲が、こんなにも現在を表現することになるとは思わなかったけれど。歴史は繰り返すって言うからね」。

 こうした話だけを聞くと、なんだかとても難解な作品に思えるかもしれないが、サウンド面ではこれまで以上に親しみやすくなっている。直接的な“This Is The New Shit”に始まって、子供たちのものらしきコーラスがキャッチーなシングル曲“Mobscene”、スウィング調のズンドコ・リズムが痛快な“Doll-Dagga Buzz-Buzz Ziggety-Zag”、言葉遊びがユニークな“Ka-Boom Ka-Boom”と、子供騙しとカッコ良さのギリギリの線を行き来しながら豪快に闊歩する。

「これまでよりもっと親しみやすくしたかったんだ。もちろん本来の自分のスタイルは失わずにね。親しみやすいといっても、一般的にいうコマーシャルなものとは少々違うだろうけど(笑)。基本的にこのアルバムは人間関係をモチーフにしているんだけど、それをできるだけ直接的に伝えたかった。サウンド面と歌詞の面の両方でね。たとえ英語が理解できなくても、サウンドだけでわかってもらえるような作品にしたかった。だから英語ではない造語なんかで歌っていたりするんだ」。

 今作からプロデューサーとして関わり、さらにはメンバーへと昇進したティム・スコルドの影響も大きいと思われる。〈元KMFDM〉という肩書きからも想像されるとおり、ベルリンをテーマにしたダークでアグレッシヴなサウンドとの相性はぴったりだ。

「ティムとは最初“Tainted Love”のカヴァーをやったときに知り合って、彼のビートやリズム、プログラミングに関する感性がとても気に入った。最高のコラボレーターさ。彼は一般的なプロデューサーが敬遠するような、いわゆる違法なことでもすんなりやってのける(笑)。自分でもエンジニアリングはけっこうやった。好みの音が得られるまで、適当につまみをいじったりとかね。幼稚な方法ではあるけれど、ティムは僕にプロデューサーとしての初心を思い出させてくれたんだ。部外者を締め出して、どこまで自分たちでできるかを試してみた作品さ」。

 出世作『Antichrist Superstar』から続いた3部作は前作で完結。新作にはアンチクライスト・スーパースターも両性具有のエイリアンも出てこない。ついついコンセプトに凝りがちな彼としては、すっきりと一貫性のあるアルバムに仕上がった。B級ゴシック・ホラーやチープなオカルト趣味が満載の、そういう意味では初々しい初心に立ち返った作品といえそうだ。

▼マリリン・マンソンのアルバムを紹介。