ロックは! パンクは! フォークは! 決して男性だけのものではないわ!! 女性にだって伝えたいことはあるし、言葉を届けるには声を張り上げなければいけないときがあるの──今回紹介するのは、自分の信念を曲げずにマイペースで歩む女性たち。邪魔する連中は、ご自慢のピンヒールでギュッと踏みつぶしてくれるわよ!!
MARY LOU LORD 〈グランジ〉を後目に軽やかなステップを刻んだワイルド・キャットのベスト・アルバムがリリース!!

「ストリートで学んだのは、人は見かけによらないってこと。たとえばパンクっぽい若者が通りかかって、〈興味示してくれるはず!〉と思っても、実は見向きもされないことが多いのよ。逆に、普通のビジネスマンなんかが足を止めて私の音楽を聴いてくれたりして、その意外性が好きなのよね」。
メアリー・ルー・ロードはこう見えても筋金入りのバスカーだ。アコーティック・ギターとミニ・アンプを片手にロンドン~ボストンの路上や地下鉄で歌い続けること8年間。ハイトーン・ヴォーカルと荒削りなギター・サウンドから紡ぎ出されるスウィートな歌。そのくせ、胸に体当たりする開けっぴろげなサウンドは豪快そのもの。度胸の良さと余裕たっぷりの立ち姿、自信に満ちたチャーミングな笑顔に、道行く人はコロっとやられてしまう。
「通りすがりの人たちの日常生活に、自分の音楽を届けるってすごくおもしろいし、素敵なことだから続けていたの」。
10代の頃からカレッジ・ラジオのDJを務めていた音楽少女は、その後、ボストンの名門、バークリー音楽院に進む。ヴォーカル・レッスンに付いた先生が偶然同じだったジュリアナ・ハットフィールドとの交友はここからスタート。メアリーがロンドンからボストンに戻った90年代初頭、ボストン、シアトル、ワシントンDC、NYでは〈オルタナ〉と呼ばれる新しいシーンが確立しつつあり、グランジ、ライオット・ガール・ムーヴメントなどがシーンを活発化させていた。しかし世間の波がディストーションに走ろうとも、メアリーはアコースティックにこだわり続ける。
彼女にチャンスが訪れたのは94年。当時、ビキニ・キルやハギーベアーが所属するレーベル、キル・ロック・スターズの目に留まり、“Camden Town Rain”を発表。〈ライオット・ガール〉のイメージが強かったレーベル内では、エリオット・スミスと同じくメアリーは異色の存在だった。
「ムーヴメントとして、ビキニ・キルなどレーベル周辺にはDIY精神を貫くパンク・シーンもあったけれど、私はどちらかというとそっちじゃなかったな。むしろ、〈リリス・フェア〉世代の前、スザンヌ・ヴェガとかがすごく好きだったわ。彼女たちがシーンを前進させた核になる人だと思うし」。
今回リリースされた日本編集盤『Lights Are Changing』はメアリーが、恋に、音楽に突っ走っていたキル・ロック・スターズ時代の音源を集めたものだ。95年のデビューEP『Mary Lou Lord』から、名曲“Some Jingel Jangle Morning”、ニック・サロモンとの“Lights Are Changing”、当時の彼氏だったカート・コバーンに向けて歌った“The Bridge”など、98年のメジャー・デビュー・アルバム『Got No Shadow』の完成度から比べると未熟度たっぷりだが、そのデコボコ感が彼女の若さを象徴していて、清々しい限りなのだ。
「えー、でもあの頃からそんなに変わってないわよ。特に性格なんて。でも子供が生まれてから、昔、大切だと思っていたことが、いまじゃどうでもよくなったりはしているけど。どんな音楽を好きか、なにをやりたいかってことはいまも変わってないわ」。
同郷ボストンのロカビリー・バンド、ラギング・ティーンズのフロントマン、ケヴィン・ペイティと8年越しの交際を経て、去年の5月に結婚。愛娘アナベルちゃんを出産し、ママになった。それでもメアリーは〈アコースティック・ギターとピアノ〉だけの音楽を作り続けるそう。でもひとつだけ違うのは、自分の経験や体験を歌にできない、ってことかも!?
「失恋したときに書くことが多いの。今後ないだろうけど(笑)。結婚前から8年くらいいっしょにいたのよね。だからちょっと別れてみようかしら(笑)」。
のろけに続き、いまは旦那と同じレーベル、ルーブリックに移籍。2001年にはショーン・コルヴィン、ビッグ・スター、ダニエル・ジョンストン、ボブ・ディラン、ポーグスなど、彼女のヒロイン/ヒーローをカヴァーした『Live City Sounds』を発表。現在は秋のリリースに向けて、新作の制作に取りかかっているところ。
「イギリスで録音する予定よ。いまのところ3曲は出来ているの。『Got No Shadow』に似ているかもしれないけど、今回は予算もないしプロ・トゥールスを使うつもり。もっと生々しい音になりそうよ」。
己のスタイルを貫き通す──これがメアリー・ルー・ロードの哲学。豪快なフォーキー・ガールから肝っ玉ママへ成長し、活動の拠点をストリートから家庭に移しても、アコギとアンプは、彼女の横にぴったり寄り添っている。(文:山口珠美)
▼メアリー・ルー・ロードのアルバムを紹介。

98年作『Got No Shadow』(Work)