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第9回 ─ ラフ・トレード

ラフ・トレードの新たなる旅立ちをバックアップする、要注目な11枚+α その1

連載
Discographic  
公開
2002/12/19   15:00
更新
2002/12/19   18:46
ソース
『bounce』 238号(2002/11/25)
テキスト
文/福田 教雄、 村尾 泰郎

THE STROKES
Is This It(2001)
このデビュー作一枚で、あっという間にロック・シーンにおける重要グループとなったストロークス。とりわけイギリスにおいて熱狂的に迎え入れられた彼らは、マンハッタンのローカル・バンドから世界のロックンロール・バンドへと変身を遂げた。アメリカでの配給権を持っているRCAのバンドとして認知されがちだけど、彼らを発掘してブレイクの土台を作ったのは、Mr.ラフ・トレード=ジェフ・トラヴィス。そんなわけで本作のUKでの配給権はラフ・トレードが持っていて、UKと日本のみオリジナル・ジャケでリリースされている。とにかくそのシンプルな曲の骨格と、じわじわとヒート・アップする青白い炎のようなエモーショナルなギターは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド~テレヴィジョンの流れを汲むNYCスタイル。身に染み着いたマンハッタン臭をニヒルに漂わせながら、顔色ひとつ変えず我が道を行く彼らは、いまもっとも新作が待たれるルーキーなのだ。(村尾)

QUEEN ADREENA
Drink Me(2002)
元デイジー・チェインソーのヴォーカル、ケイティ・ガーサイドによるユニット、クィーン・アドリーナの最新作。猫声から女王様シャウトまでを過激に使い分けるケイティのヴォーカルと、耳から血が出そうなギターの壮絶なバトルが迫力満点。ちょっぴりコケティッシュなPJハーヴェイというか、危なく誘いにのると痛い目にあいそうなスリルがいっぱい。なげやり一歩手前のジャケも玉乱です。(村尾)

HOPE SANDOVAL & THE WARM INVETIONS
Bavarian Fruit Bread(2002)
元々ペイズリー・アンダーグラウンド界隈の作品も発表していたラフ・トレードだけに、〈新生〉となって本作がリリースされたのもうなずける話。マジー・スターのホープ・サンドヴァルと、マイ・ブラディ・ヴァレンタインのコルム・オコーサクによる、影絵のようなサイケデリック・フォーク・アルバム。あのバート・ヤンシュまで参加し、本作に宿るエヴァーグリーンな香りを一層高める。うむ、滋味深い名盤です。(福田)


KEVIN TIHISTA'S RED TERROR
Kevin Tihista's Red Terror(2001) 
シカゴから登場したシンガー・ソングライター、ケヴィン・ティヒスタのデビュー・マキシ・シングルもラフ・トレード発。アメリカがいまも夢見る美しき原風景を、そのままトレースしたような繊細なメロディー。それをふわりと包み込むような柔らかなヴォーカルが、聴く者を夢の世界に連れ出してくれる。ここで聴くことができる6曲はその後、『Don't Breath A Word』『Judo』の2枚のアルバムに分けて収録された。(村尾)

BAXTER DURY
Len Parrot's Memorial Lift(2002)
イアン・デューリーの息子でいるのはどういう気分なんだろう! 「ウホッ、ウォッ!」と唸るファンキーなパブ・ロック親父に対抗してなのかどうかは知れないが、息子のバクスター・デューリーの歌は、揺れのある霞んだファルセットのなかに沈みこむ。ノーマン・ワット・ロイら、かつて父親と苦楽をともにしたブロックヘッズ勢も駆けつけたのは父親の遺匠。それでいて、ジェフ・バーロウ、エイドリアン・アトリーといったポーティスヘッドの面々や、リチャード・ハウリー(元ロングピッグス)らの名前もクレジットに並ぶ世代コンビネーション。そのウォーミーなサウンドは、ベックやベス・オートン、エールなども思わせるが、やはり鼓膜を優しく打つのは彼の歌声。ふんわりと匂いたつようなロンドン、裏通りへのエレジー。時々、あまりにも父親似の歌い口さえ飛び出すけれど、そこはそれ、親譲りのイタズラっぽい笑みが脳裏に浮かび上がる大器のデビュー・アルバム。(福田)

BAND OF HOLY JOY
Love Never Fails(2002)
トランペット、バンジョー、トロンボーン、アコーディオンなどを含めた異色の大所帯バンドとして、80年代に秘かな人気を集めたバンド・オブ・ホリー・ジョイ。なんと13年ぶり(!)の新作は、彼らのシュールなお伽話を思わせるサウンドが、じっくりと成熟して生まれた愛すべき一枚。ジョニー・ブラウンの歌声が紡ぐストーリーテリングに泣かされたり笑わされたり。サーカスみたいな哀切に満ちた初期作もぜひ復活を!(村尾)