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第17回 ─ マライア・キャリー

連載
360°
公開
2002/12/09   14:00
更新
2002/12/12   14:13
ソース
『bounce』 238号(2002/11/25)
テキスト
文/出嶌 孝次

新天地で完全復活を果たしたマライア・キャリーを改めて音楽的に大解剖!!


 いろんな意味で笑えた主演映画「グリッター」が酷評を浴びて以来、マライア・キャリーは低迷していた。が、そんななかにも彼女はゆったりしたペースでレコーディングに臨み、巻き返しへと動いていたのだ。その〈復活〉の地には、過去にもレコーディングを行ったカプリ島が選ばれた。

「カプリはまだ汚染されてなくて穏やかな環境を保ってるし、世界でいちばん美しい場所じゃないかしら。あそこにはいい思い出がいっぱいあるの。島中の人が私を地元民みたいに扱ってくれるしね。私は主にスタジオで寝泊まりして、曲作りや歌入れに集中したわ。いろんなものと距離を置きたかったのよ」。

 その成果はニュー・アルバム『Charmbracelet』に実った。まず、『Rainbow』以降チーム・アップしているジャム&ルイスとは、今回も先行シングル“Through The Rain”などでコラボレート。

「彼らのミュージシャンシップに加えて私との作曲性の一致も素晴らしいの。いいケミストリーが生まれるのよ。私はもともと彼らの曲を聴いて育ったようなものだから、初めて会っていっしょに曲作りをしたときはワォ!って感じだったけどね。ジム(ビッグ・ジム・ライト:ここ数年のジャム&ルイス作品で実際に制作を行っている人)とは
〈このチームだったら3日に1枚アルバムが作れるよ〉って言ってるの。それぐらいすぐに意気投合したってことね」。

 まあ、3日に1枚リリースされたらたまらない。それに、ブレーンはまだまだいる。

「ジャーメイン(・デュプリ)とは“Always Be My Baby”からずっといっしょね。私たちはお互いのワーキング・スタイルをよく理解し合っている。彼との仕事はいつも楽しいの。私もソー・ソー・デフ・ファミリーの一員だと思ってるほどよ」。

 とはいえ、いま名前の出た両者は主にマライアの普遍的な側面を担う面々だ。今作にエッジを与えるトピックとしては、キャムロンの“Oh Boy”をリメイクした“Boy(I Need You)”の収録、その原曲も手掛けていたロッカフェラの職人、ジャスト・ブレイズとのコラボレートが挙げられる。

「“Oh Boy”をラジオで聴いた時、〈この曲を作った人と絶対いっしょに仕事したい!〉って思ったの。彼とも素晴らしい関係を築けたわ。いままでの私っぽい部分と彼の斬新な音作りが混ざって新鮮なサウンドに仕上がっていると思う」。

 ロッカフェラといえば、3度目の共演となるジェイ・Zの参加も興味深いが、ブレイズと並ぶ旬な人選という点では、ジャ・ルールやアシャンティを手掛けてきたセヴン・オーレリアスの参加も話題だろう。

「セヴンとはバハマでいっしょにセッションしたの。ボブ・マーリーの古いスタジオでホーンを入れたり、私がヴォーカルのアイデアを出したりして、まるでジャム・セッションよ。ないしはアンプラグドってやつね! 最高だったわ」。

 ほかにも、再ブレイク中のWCを擁するウェストサイド・コネクションの客演や、フィリーからアンドレ・ハリス&ヴィダル・デイヴィスを迎えるなど話題を挙げていくとキリがない。が、別格の存在感で耳を惹くのは、押し引きの効いたヴォーカルで紡がれた“My Saving Grace”。デビュー曲“Vision Of Love”を思わせるような昂揚感を湛えた曲だ。

「あの曲は、私の歌じゃなくて楽曲そのものに力があるような、とってもスピリチュアルな曲よね。信念について歌っていて、私にとってはゴスペルのようなものだと思っているの」。

 そんな彼女の信念が、マライアという名の墜ちたスターに、ふたたび輝きを与えようとしている。

『Charmbracelet』に参加したアーティストのアルバム。