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インタビュー

Pay money To my Pain 『Remember the name』

 

 

「不思議なことに達成感はない」。

通算第3作目となる約2年ぶりの新作、『Remember the name』を完成させたPay money To my Pain。過去最高に強靭かつ多面的なこの作品をカタチにできたことで、さぞかし満足感を覚えているものと思いきや、フロントマン=Kの口からはこんな言葉がこぼれてきた。

もちろん各々の表情には充実感が漂っているし、「いま現在の自分たちにできることを2000%詰め込むことができた、という意味での満足感はある」というZAXの言葉にも嘘はないだろう。が、「いいものができたという確信が強いからこその不安がある」ともPABLOは言う。

彼らが当初から獲得してきた評価は、たとえば〈今様の欧米のヘヴィー・ロックと温度差のない轟音〉といったもの。しかもそうした音を〈狙っている〉のではなく、自分たちの嗜好と完全に一致するものとして生理的に吐き出している事実が共感を集めてきた。が、この第3作は確実にそうした過去を超越している。誤解を怖れずに言えば、容赦のない凶暴な轟音のみを期待する人たちは、ある種の肩透かしを味わうことになるかもしれない。

「新しい要素の導入と、本来持っていたものの表出。それは両方あると思う。ただ、とにかく自分たちがいいと思ったことを素直にやろうという意識が強かった。いちばんやりたくないのは、自分たちの影を追うこと。従来の代表曲の姿を追うようなことをしたら、その曲たち自体が駄目になってしまうような気がしたし」。

熱っぽくこう語るPABLOだが、アルバム制作の途中で彼が提示したキーワードは、意外にも〈ポップ&キャッチー〉というものだった。

「わかりやすさ、とっつきやすさ。そういう部分をもっとこのバンドの曲で出してもいいんじゃないかと思った。もちろんソフトになるという意味じゃなく、エネルギーの塊みたいな曲ばかりじゃなくてもいいんじゃないかということで」。

それが結果、各々の楽曲のキャラクターを際立たせることになった。そう指摘すると、T$UYO$HIは深く頷く。

「マニアックさに逃げたくなかった。奇抜さ=オリジナリティーではないから。そういう次元での差別化ではなく、もっと自分たちをわかりやすく出すことで突出することに意味があると思ったし」。

こうした言葉が飛び交うなかで、Kがふと発した「より自然に自己主張できるようになった」という言葉が、いちばん重要なところを言い当てている気がする。そして筆者自身、このアルバムとの付き合いが長いものになりそうな予感を覚えると同時に、今作がこの稀有なバンドをより広い世界へと導いていくことになるのを確信するに至っている。

「この表題が意味するのは、この作品やこのバンド自体のことだったり、聴き手自身や同じ時間を共有している人たちのことだったりする。何年か経ってこのアルバムに触れたときに、それをふと思い出すというか、いつでもここに戻れるというか。そういう思いが込められているんです。過去には、いわば日本で、この音楽で評価を得るためのエゴというのもあった。そこでの闘いに勝たなきゃ何も始まらないと思っていたというか。ただ、それによって得た何かを守っていくためにバンドを続けているわけじゃないから」。

そう語るPABLOを横目で見ながら、T$UYO$HIは「要するに〈わかるやつにはわかる〉では終わりたくないってこと」と言う。実際、今作もこのバンド自体も、ごく狭い領域で絶賛の声を集めるだけで終わってはいけない次元へと確実に到達している。そう、だからこそ彼らはこれほどの傑作を完成させておきながら、不思議なほど達成感を味わえていないのだ。少なくとも現時点においては。

 

PROFILE/Pay money To my Pain

K(ヴォーカル)、PABLO(ギター)、T$UYO$HI(ベース)、ZAX(ドラムス)から成る4人組。2004年に結成。2005年、KがLAに活動の拠点を移すも、その後もP.T.P.として活動を続け、2006年にシルヴィア・マッシーとの共同プロデュースでLA録音されたEP『Drop of INK』でデビュー。2007年にファースト・アルバム『Another day comes』をリリースし、以降〈サマソニ〉など大型フェスへの出演やマキシマム ザ ホルモンのツアーへのゲスト参加、そしてRIZEとの2マン・ツアーなどで存在感を発揮。2009年にはKが帰国し、セカンド・アルバム『after you wake up』を発表。2010年のシングル“Pictures”も注目を集めるなか、1月26日にニュー・アルバム『Remember the name』(バップ)をリリースした。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年02月25日 14:40

更新: 2011年02月25日 14:41

ソース: bounce SPECIAL (2011年1月25日発行)

インタヴュー・文/増田勇一