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インタビュー

GRAPEVINE 『真昼のストレンジランド』

 

自身のルーツをしっかりと持ちながら、斬新なアイデアを盛り込んだ全12曲。本来の意味での豊かな〈ロック〉がここに

 

 

GRAPEVINEがつまらない作品を作るはずがない。それは10数年のキャリアが示す事実であり、彼らと僕らとの信頼関係はすでに揺るぎない。分厚いキーボードとストリングスを用い、刺激的な混沌を打ち出した前作『TWANGS』の攻撃性、一転して音の隙間をグッと広げてゆったりと浸透する楽曲が大半を占めるニュー・アルバム『真昼のストレンジランド』の叙情性。それは驚くほどに対照的だが、深く心を打つ感動の本質に違いはない。

「あきらかに前作とは違いますけど〈じゃあ何が違うんだ?〉と言われると、自分でもわからないんですよね。すべてが延長上にあるものなので。季節が変わると着るものが変わるとか、そんな感じじゃないですか」(田中和将、ヴォーカル/ギター:以下同)。

状況証拠はある。田中の最近のフェイヴァリットはブルックリンのグリズリー・ベアやダーティ・プロジェクターズなどで、2009年のウィルコの来日公演ではバンド・メンバー全員で盛り上がり、「そういうムードみたいなものには影響されているかもしれないです」と言う。

「ウィルコはしっかりルーツを持ちながらも、かなりぶち壊したことをやってますからね。特別変わったことをやっているわけではないのに、バンド・アンサンブルだけで違うものを作る。そういう姿勢には憧れていると思います」。

物憂げなブルース感覚や開放的なフォーキーさ、そして鋭いギターの音色にはニューウェイヴ的なムードもある。かつてのU2や、現在のブルックリンのシーン、オルタナ・カントリーなどが見え隠れするハイブリッドなスロウ“Silverado”を1曲目に、斬新なアイデアを盛り込んだ全12曲。“This town”には明るいカントリー・ロックが、“ミランダ”には妖しいサイケデリック・ロックが、“Neo Burlesque”にはローファイなヒップホップ感が、“Dry November”にはフォーク・バラードと弦楽器の美しい融合が、“真昼の子供たち”にはとびきりポップな躍動が、“411”にはジャズとブルースがある。聴けば聴くほど緻密なディテールを持ちながら、全体の印象はさらりと乾いて明るく、ポップに響いているのが特徴だ。

「今回はアレンジに関しては相当練ったと思います。プリプロをやるだけやって、煮詰めて煮詰めて、レコーディングは一発で録る。長いものは気分じゃなかったので、曲もだいたい3分半ぐらい。より言い切らない感じというか、寸止めな感じというか、そういうものが多いですね」。

アレンジと同じく、たっぷりと時間をかけて吟味したという歌詞の世界も〈読み応え〉十分だ。“Silverado”に登場する〈異郷=ストレンジランド〉という言葉をスタート地点に、アメリカ中西部あたりを思わせる架空の町を舞台とし、放浪や挫折、争い、なくした愛、叶わぬ夢……ハッピーエンドにはなりきれないストーリーの断片がやがて大きな物語に紡がれてゆく、優れた短編集の趣がある。

「例えばオー・ヘンリーの作品にはどれも悲しいオチが付いてるんですけど、あれに勇気付けられる人はたくさんいる。レイモンド・カーヴァーみたいにあまりにダメな感じでも、ものすごく勇気付けられたりしません? 〈現代の日本に生きていてもこういう感覚はあるんじゃないかな〉と思いながら書いているので、映画や小説のように感情移入してもらえれば、すごく嬉しいですね」。

本当の意味で〈作家〉と呼べる数少ないロック・アーティストとして、GRAPEVINEは非常に貴重な存在だ。このアルバムを聴く1時間弱の時間には、ほかのどこにもない豊かな値打ちがある。

 

▼GRAPEVINEの作品を紹介。

左から、98年作『退屈の花』、99年作『Lifetime』、2000年作『Here』、2001年作『Circulator』、2002年作『another sky』、2003年作『イデアの水槽』(すべてポニーキャニオン)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年02月22日 18:11

更新: 2011年02月22日 18:11

ソース: bounce 328号 (2010年12月25日発行)

インタヴュー・文/宮本英夫

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