シグナレス 『NO SIGNAL』
楽しいほうが良いからダンサブルに
ピアニカを携え、哀愁のエレクトロニック・ダブを轟かせてきた、あらかじめ決められた恋人たちへの池永正二。消え入りそうにか細く、それでいて確実に胸を掴む歌声を持つシンガー・ソングライター、ゆーきゃん。両者がユニット、シグナレスの結成を宣言したのは昨年のこと。しかし、それ以前から結構な数の共演を重ねており、CD-R作品も発表していることを知る人は少なくないだろう。それぞれのソロでの音楽性を考えると、なかなか特異に思えるこのデュオの成り立ちを、当人たちはこう振り返る。
「ぼくのソロ・アルバムの制作時に、全曲違うプロデューサーやゲストを迎えて作りたいと考えて、そのうちの1曲を池永さんにお願いしようと思ったのが、直接のきっかけです。その後、ぼくのレコ発とあら恋のレコ発、それぞれでの客演を経て2005年の〈ボロフェスタ〉で初めて〈ゆーきゃんmeetsあらかじめ決められた恋人たちへ〉という名義でステージに立ちました」(ゆーきゃん)。
「ゆーきゃんと対バンした時、何か非常識なくらい静かな音楽ができそうだなと思って、それでいっしょにやりたいなと。シグナレスに改名したのは、周りから〈お前らはゆーきゃんかあらかじめ決められた恋人たちへかどっちや!〉と訊ねられることが多く、ややこしいままだったからです。〈じゃあバンド名つければいいのでしょ! わかったわよ!〉ということで」(池永)。
いよいよ届けられたフル・アルバム『NO SIGNAL』には、先述のCD-Rで聴くことができた楽曲の新ヴァージョンもいくつか収録。デビュー盤でありながら、約5年に及ぶ活動歴の総決算と見るべき作品だろう。詞をゆーきゃんが、トラックを池永が担い、時にデータをやり取りしながら「歌が乗ったものをアレンジし直したり、そこにまた別の歌を入れたり、弱火でグツグツ煮込む」(池永)ように作り上げたという本作には、両者の共通項である叙情性をたっぷり孕んだ言葉とメロディーが詰まっている。しかし、フォーキーとも言える歌をクラブ・ミュージック経由のビートが全編で支えている……という構造がおもしろい。ここまでストレートにダンサブルなアプローチは、両者のソロには見られなかったものだ。
「ダンサブルになったのは、楽しいほうが良いからです。ってことは、やっぱり(日常が)しんどいんだと思います。だからこそ、こうなったんでしょうね」(池永)。
▼ゆーきゃん、あらかじめ決められた恋人たちへの作品