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インタビュー

ACO 『devil's hands』

 

しばらくソロ活動から離れていた彼女が、ちょっぴり雰囲気を新たに再登場。これまでになく明るく溌剌とした新作が完成したよ!

 

 

久しぶりだというのにまるで気負いがなく、むしろ過去のどの作品よりもリラックスした雰囲気を携えている。2006年に結成されたGolen Pink Arrow♂での活動、EccyやiLL、Nabowaらの作品への客演を経て、ACOがついに戻ってきた。ミニ・アルバム『mask』から数えて4年半ぶり、フル・アルバムだと『irony』以来となるので実に7年ぶり。本当に久々の新作である。

「バンドとかもやってたんで、特に活動休止してたわけじゃないんですけど。その間も曲はずっと作ってました。今回はそのなかから抜粋したものです」。

いくつもある候補曲のなかから絞られた8曲がここに収められている。ムームや澤井妙治ら、いわゆるエレクトロニカ系のアーティストと共にディープで顕微鏡的な世界を突き詰めた『irony』の作風に比べると、本作の楽曲の構造は随分と掴みやすく、端的に言って耳馴染みの良い、ポップな楽曲が並んでいる。

「ダークな曲も結構あったんですけど、今回は周りにいるスタッフの意見も聞こうかなと思って選曲しました。いまはあんまりダークめな(曲がウケる)時代でもないということを言われたので。『irony』の時は(周囲の意見を)本当に何も聞かないで作ったので、初心に返るっていう意味でもそうしようかなと思ったんです」。

そうした結果、名越由貴夫や大川カズト、橋本竜樹といった面々がサポートし、生楽器のサウンドが全体の多くを占めることになった。

「打ち込みだとヘヴィーになっていくし、私もそういうのとかノイズとかも好きだから、どうしても(両手で視野が狭くなる身振りをして)こうなっていっちゃう。それで一回離れたいなと思ったのもあって。それと、生の楽器でシンプルにやるのが良いというか。打ち込みの人は音をたくさん入れたがりますよね。人に想像させる余地を与えないようなトラック作りをする、というか。今回は大川君が〈ノイズとかサイン波とか入れましょうか〉とか言っていて、逆に気にしちゃったりしてたんですけど、〈いらねーよ!〉みたいな(笑)。情報量が少ないっていうのはすごくいいですよね。本当はもっとシンプルにしたかったなって思うんですけど、それは今後の目標ということで」。

こうした経緯があったうえで収められた楽曲が持つ、ある種の抜けの良さは初期のACO作品が持っていた瑞々しさを思い起こさせるものだ。例えば“のらねここ”のキュートな歌詞はまるで『Kittenish Love』(98年)の頃のようでもあり、軽快さが印象に残る。

「女性アーティストって重い歌詞を書きがちだと思うんですけど、できるだけ軽いタッチで(歌詞を)書きたいなと思ってた時期があって。その時に書いたのがこの“のらねここ”なんです」。

またそれと同時に、ただライトなだけではない、確実に『material』や『irony』といった深遠な作品を経過した後であることがわかる、現在のACOの姿を強く感じさせる楽曲もしかと収録されている。それは、スタッフの意見を尊重していたにも彼女が唯一〈絶対に入れたい〉と希望したというタイトル曲だ。この静かな熱を内面に秘めたスロウ・ナンバーがアルバムに楔を打ち込み、全体の印象を引き締めている。

「いちばん気に入ってる曲なんですよね、単純に。すごく良い曲ができたなって思ったので。でも少し悩みました。ちょっとダークかなって思いながらも、〈まあ、大丈夫か〉って」。

このように、ライトな世界とディープな世界の両方を自由に行き来できるのが、現在のACOの強みと言って良いだろう。彼女はインタヴュー中、しきりに「ポップなところに戻る」という旨の発言をし、その一方で次はダークな曲を「ガツンとかましましょうかね」とも言い放っていた。『devil's hands』は、ACOがまた新たな領域に踏み出した記念すべき第一歩目として人々に記憶される作品となるだろう。

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年10月22日 14:02

更新: 2010年10月22日 14:03

ソース: bounce 325号 (2010年9月25日発行)

インタヴュー・文/南波一海

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