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インタビュー

安藤裕子 『JAPANESE POP』

 

 

 

日常の心の機微を鋭い言葉で歌い、その独自な世界観が多方面より注目されてきた安藤裕子。
2年4ヶ月ぶりのニュー・アルバム『JAPANESE POP』は、彼女にとっても日本の音楽シーンにとっても
重要な意味を持つ作品となった。なぜ、J-POPではなくJAPANESE POPなのか。彼女の真意に迫ってみた。

 

「現実を忘れてみんなが夢を見れる場所、それがエンターテインメントだと思います」(安藤裕子)

 

  もし、今これを読んでいるあなたが、
巷で<J-POP>と称される音楽に居心地の悪さを覚えているなら聴いてほしい作品がある。
 安藤裕子が約2年4ヶ月ぶりに発表する最新アルバムが、それだ。
5枚目のフル・アルバムとなる作品に、彼女がタイトルとして冠したのは『JAPANESE POP』。
ここには、彼女の<ある思い>が込められている。


「子供の頃、良質な音楽が街に流れていたんですけど、
曲作りをするようになって、
それが自分にとっていい肥やしだったんだなと思ったんです。
例えば、細野晴臣さんや松任谷由実さんがアイドルに書いてた曲とか
素晴らしいと思うんですよ。夢があって。
それで自分も夢にいいものをブチ込みたいと思って
丁寧な音作りをしてきたら、
いつの間にかそういう遺伝子を継承しているような状態になっていた。
だから<日本のポップスってそういうものだったんじゃないの?>みたいな」

 

 彼女のそうした<JAPANESE POP観>を形にしていくうえで、
今回注目すべきなのは複数のアレンジャーが起用されている点だ。
迎えられたのは、今まで絶妙なパートナーシップを発揮してきた山本隆二に加えて、
オランダ出身の新進気鋭のシンガー・ソングライター/プロデューサーであるベニー・シングスと、
新世代ポップ・マエストロの宮川弾。
彼女が今回このような制作方法をとった背景には、ここ数年の意識の変化が大きく関係していたという。  



「自分の生活の中で吸収したものから音楽を作ってることが多かったから、
興味のベクトルが音楽だけじゃない人間だったの。それがずっとネックで。
でもベスト・アルバム『THE BEST’03~’09』を作った時、
自分のやってきた音楽が大好きだったじゃないかとか、
死ぬ気でやってきたじゃないかって、ようやく疑いが解けたのね。
自分は音楽を作る人間なんだって感じられたっていうか」

 

 

 

 

  そんな彼女にとって、今回のレコーディングは新たな驚きや喜びを与えてくれるものであったようだ。 


「人間関係の気持ちの裏切りみたいのを今までは怖がっていたんです。
でもベニー・シングスはそういう変な猜疑心を無くしてくれたというか、
スンナリと違和感なく作業することができましたね。
とくに“Dreams in the dark”では、胸クソ悪い世の中だなと思って斜に構えて
「世界中の人が笑えたらいいな」って書いた歌詞が、本当にそう夢見てもいいのかなって
優しい気持ちになれるアレンジになっていて驚かされました」
 

 

かたや、宮川弾のアレンジは「もともとガーリーでドリーミーな人だと思ってたんだけど、
それが100%全開でフル稼働していた」という仕上がりに。
彼が作曲した“摩天楼トゥナイト”では80'sなアーバン・サウンドを展開するという遊び心も忘れてはいない。


「全部突き詰めてしまったら聴くほうも疲れるし、やるほうも死ぬ寸前なわけですよ。
だからこういう精神的にふざける場所ってのはすごく大事で」

 

  ここ最近、J-POPのメインストリームでは<夢は頑張れば叶う>とか<今のままの君でいい>みたいな、
抽象的な自己啓発的メッセージがよく歌われている。しかし彼女はそういうことを安易に歌ったりはしない。
それは彼女が自分なりのエンターテインメント観(哲学と言ってもいい)を持っている証しでもある。

 
「現実なんてクソみたいなことが多いじゃないですか。
でもそれを忘れてみんなが夢を見る場所がエンターテインメントだと思うのね。
自分もベストを境に色々な喪失感があったけど、でも曲作りは楽しくて。
それが支えになって前へ前へ進むことができた。
だからアルバムができた時、自分は(精根尽きて)ズタボロなんだけど、
アルバムはすごく上等なものに思えたの。みんなと音作りを楽しんだ時間が詰まっていたから。
ああ、これが自分に夢をくれたんだなと思って、自分より大きな存在だから、
でっかいタイトルにしたんです」

 

 

 


 

  ここには、<今の日本>に生きる我々が日常で感じる
さまざまな心の揺れ(喜び、悲しみ、絶望、不安などなど)が詰まっている。
それをエンターテインメントとして表現することで、
我々に<生きるって大変だけど、まんざらでもないよなあ>と夢見させてくれる音楽。
彼女が表現しているのはまさにそういう音楽であり、それこそが現代のJAPANESE POPなのだ。


「楽しい時は死ぬほど浮かれるし、落ち込む時はドン底まで落ち込むのが当たり前だし。
そういう当たり前のものがいっぱい含まれてようやく世界は完結すると思うんです。
だから自分はすごくアルバム型の作り手だなと。色々な気持ちを紡ぎながら、
一つの世界を作っていく作業を日々していますね」

 

 

■ PROFILE…安藤裕子(あんどう ゆうこ)

 03年、ミニ・アルバム『サリー』でデビュー。
心の内側を揺らすシンガー・ソングライターとして独自の地位を確立。
ジャケット・デザイン、スタイリング、PVの監督、楽曲提供などマルチな活動で、高い注目を集めている。 

 


記事内容:TOWER 2010/09/05号より掲載

カテゴリ : COVER ARTIST

掲載: 2010年09月03日 10:00

更新: 2010年09月03日 10:08

ソース: 2010/09/05

小暮秀夫

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