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インタビュー

JAMAICA 『No Problem』

 


写真/梶野彰一

ダフト・パンクの登場以降、フランスのクラブ・ミュージックは世界を席巻し続けている。しかし、ギター・ロックに目を移すと、フェニックスを除けば国外まで名前が知られているアーティストはほぼ皆無。そんななか、久々にフレンチ・ギター・ロックの閉塞を打ち破りそうな逸材が現れた。それが、このアントワン・ヒレールとフロウ・リオネから成る2人組、ジャマイカだ。

彼らが初めていっしょにバンドを組んだのは高校生の頃。当時やっていたのは遊びのバンドだったそうだが、実はそのメンバーには驚くべき人物も加わっていた。あのジャスティスのグザヴィエ・ドゥ・ロズネとギャスパール・オジェである。

「当時いっしょにプレイしてたなんておかしいよね」と語るのは、今回のインタヴューに応えてくれたアントワン。「グザヴィエとは友人を通じて知り合って、いっしょに音楽を作るようになったんだ。ベーシストが辞めたから、グザヴィエが〈穴埋めするよ〉ってね。当時ギャスパールはドラムス担当だったよ。でも、2人がバンドにいたのはほんのわずかな間だけ。そのうち彼らはジャスティスを始めたんだよ」。

一方で、残されたアントワンとフロウはポニー・ポニーというバンドを結成。これは週末のみ活動するグループだったが、バンドからドラマーが脱退したときに転機が訪れた。なんとグザヴィエから、〈本気でアルバムを出したいか? 俺、いま暇なんだ。プロデュースしたいから作業を始めよう〉という思いも寄らない誘いを受けたのである。そこで2人は大きな決断に至った。

「メンバーが減ったこととアルバムのレコーディングを始めたことが、バンド名を変えるきっかけになったんだ。実際にアルバムの曲を選んだ後、〈これは化ける! ジャマイカはそのためにある!〉ってはっきりわかったからね。それで人生最大の決断をして、昼間の仕事を辞めて、(フルタイムの)ミュージシャンをめざしたんだよ」。

彼らの決断が間違っていなかったのは、グザヴィエとピーター・フランコ(ダフト・パンク『Alive 2007』のサウンド・エンジニア)をプロデューサーに迎えたファースト・アルバム『No Problem』を聴けば、火を見るよりもあきらかだろう。なぜなら、ポップ・ミュージックの伝統に則り、全11曲36分強というコンパクトな仕上がりとなった本作は、最高にご機嫌でキャッチーなポップソングが次々と飛び出す会心の出来だからだ。このアルバムを彩る軽妙洒脱なメロディーは、彼らがフェニックスの大ファンだというのを納得させるもの。そして、それをAC/DCをスタイリッシュにしたような、いい意味で非インディー的な開かれたサウンドに乗せているのがおもしろい。

「僕らは、インディー・ロック好きのブログでしか知られていないバンドみたいな音楽にするか、AC/DCやポリスみたいなすごくタイトな音楽にするかを選ばなきゃいけなかった。で、僕らが選んだのは後者。いちばん大事だったのは、インディーのためのインディーにならないこと、だね。風変わりさとかに隠れないで、自分たちが作れる最高の音楽を作っていきたいんだ」。

そして、本作のもうひとつのポイントは、とにかく強烈なコンプレッサー処理。間違いなくこれはダフト・パンクの『Human After All』以降、もしくはジャスティスの『†』以降のエレクトロ的な音作りだ。「今年は2010年だから、僕らはこの時代のレコードを作りたかった」という彼らの狙いは、完璧に達成されている。

要するに、このジャマイカとは、フェニックス以来の良質なフレンチ・ギター・ロックであると同時に、フレンチ・エレクトロを通過したモダンな感性を持つアーティストでもあるのだ。そして、そんな稀有な存在だからこそ、久々にフランスから世界へと羽ばたくロック・バンドとなるのではないか、と期待して止まないのである。

 

PROFILE/ジャマイカ

アントワン・ヒレール(ヴォーカル/ギター)とフロウ・リオネ(ヴォーカル/ベース)から成る2人組のロック・ユニット。2007年に前身バンドのポニー・ポニーをパリで結成。翌年にはジャスティスのグザヴィエ・ドゥ・ロズネをプロデューサーに迎え、エド・バンガーやインスティテューブス、ボーイズノイズから7インチを次々とリリースする。2009年6月には〈GAN-BAN NIGHT〉で初来日し、その直後に改名。2010年3月に発表したジャマイカ名義では初となるシングル“I Think I Like U 2”がヒットを記録。〈フジロック〉への出演でさらなる話題を集めるなか、このたびファースト・アルバム『No Problem』(Ctrl Frk/KSR)を日本先行でリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年08月30日 14:26

更新: 2010年08月30日 14:26

ソース: bounce 324号 (2010年8月25日発行)

インタヴュー・文/小林祥晴

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