こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

MASS OF THE FERMENTING DREGS 『ゼロコンマ、色とりどりの世界』

 

ドラマーが正式加入し、さらにパワーアップ。3人だけで作った初のフル・アルバムが完成だ! どんなに勢いのある状況でも、しっかり足下を見つめながら着実に成長している彼らの誠実さが伝わってきて……心が震える!

 

マスドレ-A

原点回帰してる気がします

「〈ああ、いいアルバムになるな〉って思ったのは、1曲目が出来た時ですね。〈なんか落ち着く〉って思った。今回のアルバム、歪んどるし、わりと速いし、結構ヤンチャな曲が多くて。それはそれでいいんだけど、アルバムのなかでキーになる曲が見えないとちょっとバンドよがりになるっていうか、盤になった時に〈よし!〉ってあんまなれへんっていうか。『ワールドイズユアーズ』の時は、6曲目(タイトル曲)が出来た時に落ち着いたんですよ、すごく。で、『MASS OF THE FERMENTING DREGS』は、3曲目の“Skabetty”が出来た時に〈マスドレでこんな曲やって大丈夫やろか?〉って思って。そういう自分たちのなかの新しい感覚というか、次への階段の1段目だけでもポンッと上れた感じがした曲が、今回では“ゼロコンマ、色とりどりの世界”だったんですよね。アルバムとしてのあり方が見えた、と思って」(宮本菜津子、ベース/ヴォーカル:以下同)。

90年代のオルタナ色に彩られた轟音が、凄まじい音圧で迫る2008年の『MASS OF THE FERMENTING DREGS』。中尾憲太郎を共同プロデューサーに迎え、歌とメロディーをよりポップに開花させた2009年の『ワールドイズユアーズ』。 そして、いよいよ完成したファースト・フル・アルバム『ゼロコンマ、色とりどりの世界』。最初のミニ・アルバムの発表直後からサポート・ドラマーとしてバンドを支えてきた吉野功が正式メンバーとして加入した後、たった3人だけで作り上げた本作からは、「高校の頃はラウド・ロックばっか聴いてたから、ギターとかベースは歪んでるもん、っていう認識が刷り込まれとる(笑)」という野性的なサウンドも、清々しく響き渡る歌も、共にはっきりと聴こえてくる。つまり、彼女たちは過去の2作品の美点を踏襲したうえで、新作では3つの楽器と声によるアンサンブルをさらに精緻なものへと進化させたということだ。

「なんだかんだで、原点回帰してる気がしますよね。どっちかっていうと2枚目のほうがポップやし(笑)。でも両方経たうえで、いい塩梅のところを探せたように思うんです。足して足して足して、っていうファーストから、引くことを覚えたセカンド。だけどやっぱり足し算が好きだから(笑)、何がちゃんと鳴っててほしいかを考えて、しっくりくる足し算の仕方を見つけられた感じがありますね」。


もっと素直になりたいな

先行シングルとなった“ひきずるビート”“まで。”に始まり、日本の祭り的なビートが聴き手の血を沸き立たせる“終わりのはじまり”、ディストーション全開で繰り返されるリフの応酬と清澄なコーラスワークで一気に駆け抜ける“RAT”。リフ、ブレイク、音飾、リズムといったシンプルなパーツの組み合わせ方ひとつで、サウンドのヴァリエーションは大きく広がる。だが、そのなかで伝えられる言葉は一貫して〈いま〉だ。刹那を見つめるその視点は、タフで扇動的なマスドレの音世界に、儚さと切なさを滲ませる。

「自分は目の前のこととか、半径何メートル以内の人のことしか書けないから、〈刹那的〉とか、そういうふうに伝わってるんなら正しいと思います。ホントにいまのことしか書けない(笑)。たぶん、いつまで経ってもそうだと思います」。

〈転がるような日々を/何気ない記憶を/わたしはゼロコンマの世界で切り取る〉——そんな一節で始まるタイトル曲が、本作で言えばその象徴となるのだろう。

「歌詞に出てくる〈ぼく〉と〈君〉と……〈わたし〉。実は全部自分なんですけどね、私のなかでは。この曲の歌詞を書いてる時に、自分の10代の頃のことがずっと頭のなかでグルグルしてて。音楽と出会うまでの自分と、いま音楽をやってる自分がいて、音楽を始める前の自分に言いたいことがたぶんあって。それを考えてたら、この歌詞がバーッて出てきた感じだったんですよね。歌詞とか音楽とか歌って限定するとおもしろくないし、好きなように解釈してもらえればいいんですけど、でも書いた時は、〈わたし〉はいまの自分。〈君〉はなんもできひんでモジモジしとる10代の自分。〈ぼくたち〉はいまの自分とその頃の自分で……。私、hideさんが大好きなんですけど、(今年の)5月2日の13回忌の時にオフで、思い立って築地本願寺に行ったんですよ。ものすごい人で入れなかったんですけど、そこで〈そうや!〉って思ったんです。何を見て、何について納得したのかは自分でもわからないんだけど、自分がhideさんに出会って、音楽を始めて、っていう原点をたぶん感じたんだと思うんですよね。そこに集まってる人たちは、音楽を、hideさんをすごい愛してて。そういう、前は自分のなかにあたりまえにあったはずの感覚から、作り手になったいまは結構離れとったんや、ってことに気付いて。そっから10代の頃のことが頭から離れなくなってしまった」。

彼女たちの意志に引き寄せられて、〈いま〉を大事にしたくなる。〈いま〉がどんな状況であろうとも、とにかく前を見据えたくなる——そんな本作には、冒頭で宮本が語ったように、バンド自体の〈その先〉も映し出されている。

「自分らの好きなことっていうか、鳴らしたい音を真っ直ぐに伝える、っていう行為がこれまでは上手くできんかったっていうか。したいんやけど、いまの自分がすると不釣合いになるんちゃうか、嘘臭くなるんちゃうか、とか思ってたんが、ちょっとずつやけど迷いなくできるようになってきた。次はもしかしたらものすごくスクリーミングしてるかもしれないけど(笑)、それが素直なやり方なら、それはそれでオッケーで。もっと素直になりたいな、っていう気持ちはありますね」。

 

▼関連作品を紹介。

MASS OF THE FERMENTING DREGSが出演するDVD『Kill your T.V. '09 TOUR』(AVOCADO)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年08月20日 18:02

ソース: bounce 323号 (2010年7月25日発行)

インタヴュー・文/土田真弓