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インタビュー

怒髪天 『オトナマイト・ダンディー』

 

怒髪天_特集カバー

 

オトナはサイコー! そんなこと突然言われてもすぐには頷けないが、怒髪天が言うなら話は別だ。結成26年目、一貫してシンプルなロック・バンドの醍醐味を追求しつつ、その年齢ならではのリアルを歌い続けてきた怒髪天が、40代に突入した実感をスーパー・ポジティヴに歌い上げた“オトナノススメ”と“ド真ん中節”という、強力なシングル2曲を含むニュー・アルバム『オトナマイト・ダンディー』は、これまで小出しにしてきた豊かな音楽性のヴァリエーションも一気に解放し、キャッチーな聴きやすさとマニアックな滋味深さを両立させた素晴らしい作品に仕上がった。増子直純(ヴォーカル)のトークも、もちろん絶好調である。

 

大人になった俺の毎日をそのまま描いてる

 

――前のアルバムから1年足らず。快調なペースですね。

「1年に1枚は出そうかと思ってるから。〈今年はこういうことをやったよ〉って、スナップみたいに切り取っておこうと思ってね。もう40も過ぎたし、出せるうちにガンガン作って出したいんだよね」

――制作期間が空くのとそうでないのとでは、アルバムの性格も違ってきます?

「違うね。その時のバンド内の流行りが入れられるから、(ガンガン作ったほうが)絶対おもしろい。うちのギター(上原子友康)ともよく話すんだけど、数年後に聴いて〈あの頃なんであんな音で録ったんだろう?〉とか〈なんであんな曲作ったんだろう?〉っていうアルバムを作りたいの。そのほうがおもしろいから。いい曲はいい曲で決まっていて、そのほかに遊びで入れる曲の良さがだんだんわかってきた。全部メインディッシュだとコース料理として成り立たないんだよね」

――前菜があって、スープがあって……。

「そういうこと。昔はアルバムを作ろうと思うと、寿司屋に行ってお好みだけ頼むみたいな感じだったんだけど、コース料理をちゃんとセットして出す、っていうおもしろみが最近わかってきた」

――新作の感想を言うと、ここ何枚かでいちばん軽やかな聴き心地でした。

「ロック的なものじゃないからね、今回は。“ド真ん中節”と“オトナノススメ”っていう柱になる2曲が入ってるから、それ以上に伝えたいことはない。あとは日記的なものでね、40過ぎて大人になった俺がどのように思いどのように暮らしているのかを、一個一個モチーフとして切り取っていくっていうことをやりたかったから。だから二日酔いで1曲、昔の友達に会って嬉しかったら1曲、何もやる気の出ない時でも曲を作ってみようと思って1曲とか。全部が全部、大人になった俺の毎日をそのまま描いてるものを作りたかったから、すごいリアルな感じになったと思う」

――ですね。

「あとはね、昔からそうだけど、音楽的なチャレンジは毎回必ずしてきたの。でもうちのギターが言うには、俺の歌詞と俺の声で歌っちゃうと、キャラクターに押されて、何やってもたいがい怒髪天っぽくなっちゃう。だからメロディメイカーとしての友康の優秀さとか、細かい音楽的なところにあんまり目がいかないところがあるのかなって」

――う~ん、それは確かにあったかもしれないです。

「だから今回は、やり方を変えたの。いつもは友康がいっぱい作った曲のなかから12~13曲を自分で選んで持ってくるんだけど、今回は〈作った曲全部持って来て〉って言って。そしたら30曲ぐらい持って来たから、おもしろいと思ったものをメンバーとスタッフでまず選んでみたの。アルバムに入れる、入れないは別にして。だからレコーディングする曲が決まった時、友康が逆に〈これ、怒髪天でできる?〉って言ったぐらいだったんだけど、そういうふうに、着地点が全然見えないまま作ったから、いままでのレコーディングでいちばんおもしろかったね」

――リズムだけとってもロックのリズムの博覧会だし、曲調もアレンジも引き出しがものすごく多い。いまさらながら感動しました。

「うちのギターは、あらゆるジャンルのことができるから。いまも毎月〈ギター・マガジン〉を買って、載ってる楽譜を1か月かけて全部コピーするのね。あらゆるジャンルのニュアンスを学んでるんだよ。あいつ、ギター大好きだから。すごくいい曲作るんだけど、逆に〈いい曲すぎて俺らには合わないよね〉っていう曲もいままでいっぱいあって。だけど今回はそれを度外視して、〈いい曲〉をどれぐらい俺らの方向に引っ張ってこれるか。メジャー7thとか、絶対俺のなかにない世界なんだけど、それもやってみようと。そうすると、そういう曲調じゃないと表せない気分があるということもわかったの」

 

怒髪天_A1

 

ロックなんて仰々しくて馬鹿馬鹿しいもん

 

――たとえば“俺ときどき…”とかですよね。アコギを入れたラテン・ジャズのような思い切りオシャレな曲調で、聴いてびっくりしました。

「それ、普通だったら絶対はじいてる。やらない」

――でも、単純に曲として素晴らしい曲だから。

「そう。完成度高いよね。曲想に沿ってどのぐらい完成度を上げられるか、俺が職業作家的に楽しめた曲だから。ほとんど安全地帯だよね。だから歌詞に〈予感〉って入れたんだけどさ(笑)。やったことないから、おもしろかった。でも、意外とイケるなって」

――イケますイケます。

「イントロ当てクイズで(怒髪天の曲だと)絶対に当たらないようなもので、1曲聴き終わるごとに〈なるほどね〉っていうものが作りたかった。だって“オトナノススメ”と“ド真ん中節”という、これ以上に俺らっぽいものはないぞっていう曲が2曲入ってるから、それに近い曲を並べたっておもしろくないじゃない。アルバムなんだから。あとは、サウンドと歌詞の世界観のミスマッチを狙うことと、逆にサウンドに寄り添うことと、両極端もやってるから。“アフター5ジャングル”とか、ジャングル・ビートにジャングルという言葉を使うことで相乗効果が得られるし、逆にハード・ロック調なのに〈数え歌〉という“ヤケっぱち数え歌”は完全にミスマッチ。でも実は洋楽を聴いてるヤツって、歌詞をわからないで聴いてるから、〈本当はこういう歌詞だったらどうすんだ?〉っていう、ちょっとしたあてこすりでもあるんだよね。そういう遊びが、アルバムにはあっていいと思ってるから」

――“オレとオマエ”は、やけに爽やかな80’sポップスの匂いがしますね。

「これはね、友達と久々に会ったの。いちばん最初にバンドをやった時のベースで、怒髪天はそいつとふたりで始めたんだけど、十何年ぶりに会えて、嬉しくて作った曲。その頃に流れてた音が欲しくて、わざわざキーボードも買ったの。あの当時のセコいシンセサイザーの音が出るやつなんだけど、いま買うと高いんだよね。そういうところにも凝ったし、ベースラインも80年代のロック・バンド的。当時のロック・バンドって、洋楽を日本的に解釈してるからちょっと間違ってるというか、英語と日本語の韻の違いを消化できてないままに歌詞をつけたりしてるから。そのいびつな感じを出したくて、サビの歌詞を〈オ~レと、オマエェ〉にしたの。すっごいよく出来たと思う。これを作ってる時はバンド内で80年代ブームで、トム・トム・クラブとかアダム・アントとか、あのへんをガンガン聴いてたから、どうしてもやりたかった」

――ということは“アフター5ジャングル”もその流れですか。

「そう。あのへんのものって、きっちり消化されたジャングル・ビートじゃないのね。〈ドコドコやってればいいんでしょ〉的なゴリ押し感があって、カッコ良くなり切らない。そういう洋楽テイストを聴いて育ってきたから、そのへんの曲を聴くとキュンとくるんだよ。そんなのはダサイとずっと思ってたんだけど、いよいよ大人になってきた時に、そのへんのものが愛おしくなってきたんだよね。あの青臭さとか、未熟さも含めて。それを今回は散りばめたかったから、やっててすっごいおもしろかった。〈これ、絶対ないわ~〉って言いながらやってたからね。〈ないよね~、じゃあ入れとこう〉みたいな(笑)」

――“武蔵野流星号”にはもう少し前の、70年代の歌謡テイストを感じます。

「これはフォーク・ロックだね。でも歌謡のセオリーは全部入ってるから。Bメロでグッと落として、引っ張って、サビでバン!といく。間奏終わったら、落として、またAメロ入るみたいな、曲の展開は歌謡だね。そういうのが好きなんだよ。あと“悪心13”も、80年代のジャパニーズ・ロックの王道の、〈女性コーラスを従えて、ストーンズに影響受けました〉みたいな、いわゆるゴージャスなサウンドで。それを作って、そこにまったく合わないセコい世界観の歌詞が乗る(笑)。そこがおもしろいんだよね」

――“ふわふわ”の、ニューウェイヴっぽい感覚もたまらないです。

「そうね。こういう気分の日の曲ってあんまり作らないから。すごい嬉しけりゃ1曲作るし、悲しくても1曲作れるけど、なんともない気分というか、〈なんだかな~〉っていうね。阿藤海みたいな(笑)、そういう気分を歌った曲。歌は機械っぽく歌ってるんだけど、いまの技術だったら、コンピューターで波形とか処理できるの。だけど、これは全部自分でやってるからね。波形を切るところで、息を止めたりしてるから(笑)。歌った声をロボット的に処理するんじゃなくて、ロボット的な声で歌う。あんまりいないと思うよ、ロボット的な声で歌ってる人は(笑)。馬鹿馬鹿しいけど、おもしろかったよね」

――馬鹿馬鹿しいっていうのは褒め言葉ですよね。きっと増子さんには。

「言ってもさ、ロックなんて仰々しくて馬鹿馬鹿しいもんじゃん。だってプレスリーのカッコ見ても、フレディ・マーキュリーを見ても、ほんとに馬鹿馬鹿しいと思うよ。そういうもんなのよ。そういう非日常の馬鹿馬鹿しさみたいなものが、欠けてきてると思うんだよね。美容室に就職したての兄ちゃんみたいなのばっかりバンドやってるじゃん、いま。非対称的な髪型して。そういうんじゃないから、音楽って。もっと遊びがあって、勘違いしてて、馬鹿馬鹿しくて毒々しくなきゃ駄目。で、言いたいことをデカイ声で言う。間違ってても言う。そういうものを、もっと堂々とやっていいんじゃねぇかなって俺は思うんだけどね。〈そりゃ違うだろ〉って言われても、〈いいんだよ、俺がこう思ったんだから〉ってさ。いちいち下調べしてさ、こう言ったらこう思われそうだから言わないでおこうとかさ、そういうのは良くない。うまいこと生きられるかもしれないけど、そういうやつが作るものはおもしろくない」

 

怒髪天_A2

 

残った俺らが言うしかない。〈大人は楽しいぞ〉って

 

――増子さんの歌はメッセージというより、デカイ独り言みたいに聴こえる時があるんですよ。

「駄々こねてるんだよ。パンクって俺はそうだと思う。いかにデカく駄々をこねられるか。駄々こねるのに、カッコ良くやろうなんて無理でしょ。みっともないぐらいに駄々こねないと駄目。しかも、大人になって駄々こねるほうが強力だからね。この年になってまだ駄々こねてるという、そうでないとイカンと思うよ。ゴネ得じゃないけどさ、駄々こねてワーワー言わないとわからないことっていっぱいあるから」

――ラストに入ってる“我が逃走”では、カントリー・パンクみたいな軽快な曲調で〈逃げるが勝ちだぜ〉と歌ってるのが、楽しいけど妙にひっかかります。

「ダジャレだけど、逃走も闘争も、勝ちに行くために必要だってこと。逃げる時は逃げていいんだよ。受験に失敗したから死ぬとかさ、そういうのを聞くと言わずにはいられない。いまの子供たちに対するプレッシャーのかけ方は異常でしょ。親も先生も、受験に失敗したら一生がパーになるなんて言うけど、全然そんなことない。いい大学入っていいとこ就職したって、潰れたらどうなるのよ。俺だって現場仕事してる時に、ガードマンのオッチャンで去年まで社長やってた人もいたし、東大出てる人だっていたよ。みんな会社潰れちゃって。でもそういうもんだから。なんてことないんだよ。何しろ生きてりゃなんとかなる。生きてないとなんともならんよね」

――そういうことを踏まえてまた1曲目“オトナノススメ”を聴くと、ズシリと重いものがあります。

「ずっと、大人になるのは嫌だなと思ってたのね。俺はもともとパンク・バンドから始まったし、〈大人を信じるな〉が標語だったから。でも、それもイメージだけで、そう言われて〈なんとなく大人はつまんなそうだな〉と思ってただけで、実際なってみたらすごい楽しい。みんな結局、〈ホントは楽しかったよ〉って言う前にバンドやめちゃってるから、言えないの。だから残った俺らが言うしかない。〈大人は楽しいぞ〉って。若いバンドしかいないと、若いヤツの考えしか世の中に流れないんだよね。でもそんなこたぁないんだよ」

――ところで、ジャケットの写真。最高にキマッてますね。

「たまには真面目に撮ろうということでね。いままでは羽織袴だったり作業服だったりしてたわけだからさ。大人だし、スーツでいいんじゃないのって。AOKIの9,700円のやつだけどね(笑)。みんなでAOKIに行っちゃったもん。上戸彩のナレーション聞きながら、マネージャーに選んでもらって。でもさすがに、〈もてスリム〉は買ってくれなかったね。ちょっと高かったんだよ、〈もてスリム〉は(笑)」

――タイトルの『オトナマイト・ダンディー』というのは、完成した後につけたんですか。

「そうだね。大人ということで、マイトガイみたいなイメージがあったのと、ダンディーという言葉を使いたかったんだよね。子供の頃に憧れた大人にはダンディズムがあって、松田優作だったり、ルパン三世だったり、ジェームス・ボンドだったりね。いまやほとんど絶滅した言葉だけど、昭和的なテイストも入れたくて、あえて使った。クルマも外車じゃなくてコロナなんだよ」

――いろんな世代の人に響いてほしいと切に思います、このアルバムは。

「そうだね、お願いしたいね。リアルなものが出来たと思うから。若い頃は生活の心配がなくて、親元にいればメシも喰える。でも働きはじめてわかると思うんだけど、恋愛ばかりがすべてじゃないから。学生の頃はそればっかり考えてるから、そんな歌ばかり聴くと思うんだけど、働きはじめると、それだけじゃ世の中生きていけないってわかるから。朝から〈好きだ嫌いだ〉なんてさ、あんなもの聴いて仕事できないよ。歌っていうものにもっと期待していいと思う。こういう歌もあるから。むしろ、こういう歌がないと駄目だと思うんだよね」

――次の作品もまた、早そうですね。

「またガシガシやっていこうと思う。毎回、これ以上は作れねぇなというところまでやってるから、次回作のハードルを自分で上げてるんだけど、それがおもしろいんだよ。〈よっしゃ、あれを超えてやる〉って、またやりたくなるんだよね」

 

▼その他の怒髪天の作品

 

ツアー情報

「リズム&ダンディー "Dメン2010 日比谷より愛をこめて"」 ワンマン・ライヴ

日時/会場:2010年4月17日(土) OPEN 17:00 / START 18:00 @ 東京・日比谷野外大音楽堂
料金:
前売・全席指定 4,000円(税込)
※指定席即日完売につき、急遽立見エリア解放決定(CNプレイガイド:0570-08-9999)!!
問い合わせ:
HOT STUFF PROMOTION(03-5720-9999)

 

全国ワンマン・ツアー「オトナマイト・ダンディー・ツアー 2010 "NEO ダンディズム"」

日時/会場:2010年5月3日(月・祝) @ 千葉LOOK
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION(03-5720-9999)

日時/会場:2010年5月5日(水・祝) @ 栃木・宇都宮HEAVEN'S ROCK
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION(03-5720-9999) 

日時/会場:2010年5月6日(木) @ 茨城・水戸LIGHT HOUSE
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION(03-5720-9999)

日時/会場:2010年5月9日(日) @ 京都MUSE
問い合わせ:YUMEBANCHI(06-6341-3525)

日時/会場:2010年5月11日(火) @ 兵庫・神戸STAR CLUB
問い合わせ:YUMEBANCHI(06-6341-3525)

日時/会場:2010年5月12日(水) @ 岡山PEPPERLAND
問い合わせ:夢番地 岡山(086-231-3531)

日時/会場:2010年5月14日(金) @ 大分T.O.P.S
問い合わせ:BEA(092-712-4221)

日時/会場:2010年5月22日(土) @ 石川・金沢vanvan V4
問い合わせ:FOB金沢(076-232-2424)

日時/会場:2010年5月23日(日) @ 静岡・浜松MESCALIN DRIVE4
問い合わせ:JAILHOUSE 052-936-6041

日時/会場:2010年5月29日(土) @ 岩手・郡山CLUB#9
問い合わせ:GIP(022-222-9999)

日時/会場:2010年5月30日(日) @ 宮城・仙台CLUB JUNK BOX
問い合わせ:GIP(022-222-9999)

日時/会場:2010年6月4日(金) @ 滋賀U★STONE
問い合わせ:YUMEBANCHI(06-6341-3525)

日時/会場:2010年6月5日(土) @ 大阪BIGCAT
問い合わせ:YUMEBANCHI(06-6341-3525)

日時/会場:2010年6月10日(木) @ 香川・高松DIME
問い合わせ:デューク高松(087-822-2520)

日時/会場:2010年6月11日(金) @ 広島NAMIKI JUNCTION
問い合わせ:夢番地 広島(082-249-3571)

日時/会場:2010年6月13日(日) @ 福岡DRUM Be-1
問い合わせ:BEA(092-712-4221)

日時/会場:2010年6月18日(金) @ 北海道・函館CLUB Cocoa
問い合わせ:WESS(011-614-9999)

日時/会場:2010年6月20日(日) @ 北海道・札幌PENNY LANE 24
問い合わせ:WESS(011-614-9999)

日時/会場:2010年6月26日(土) @ 愛知・名古屋CLUB QUATTRO
問い合わせ:JAILHOUSE(052-936-6041)

日時/会場:2010年7月4日(日) @ 東京・新木場STUDIO COAST
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION(03-5720-9999)

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掲載: 2010年03月03日 18:00

更新: 2010年03月10日 18:00

インタヴュー・文/宮本英夫

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