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インタビュー

アナログフィッシュ 『Life Goes On』

 

アナログフィッシュ_特集カバー

 

約1年半のブランクを経て、ドラマーの斉藤州一郎がバンドに復帰。慣れ親しんだ3人編成をベースに、サポート・メンバーと過ごした間に積み上げた音楽的な幅広さを加え、アナログフィッシュは一回りスケールの大きなバンドへと確実に成長した。通算5枚目となるニュー・アルバム『Life Goes On』は、斉藤不在の間に録音されたものと、その後に作られたものとが半分ずつ同居した変則的な作品だが、全体のムードは前向きで開放的なものに統一され、聴き手の心にストレートに届く歌と歌詞が揃った、期待以上のクオリティーを誇るアルバムに仕上がっている。顔ぶれは同じだがあえて〈新生・アナログフィッシュ〉と言いたい、3人の新たな人生のストーリーはここから始まる――。

 

 

バンド存続の最善の方法は、州に戻ってきてもらうこと

 

――聴いているとワクワクしてくる〈旅立ち感〉のある曲が多くて、フレッシュで、開放的で、素晴らしいアルバムだと思います。早速、今日の主役の斉藤さんにお話を訊こうと思うんですが――。

斉藤州一郎(ドラムス)「僕が主役ですか(笑)」

――なんたって、斉藤さんが復帰されてから初のフル・アルバムですから。

斉藤「そうですね。でも実際にレコーディングに参加したのは途中からなんで、音源のなかで叩いてるのは半分なんですけど。前半のレコーディングがひと段落して、そのタイミングで僕が戻ることが決まったんで」

――ということは、すでに作業を始めていたんですね。

下岡晃(ヴォーカル/ギター)「そうです。半分ずつ〈あるだけ録ろう〉という話で始まって、半分録り終わって〈残りをいつやるか〉ということになった時に、州が戻るという話になって。バタバタでしたけど」

――話せる範囲で構わないんですけど、脱退した頃と比べて、体調が良くなったということですね。

斉藤「そうですね。行ける状態になって、戻ることに決めました」

――どんな連絡を入れたんですか。〈お待たせしました〉的な?

斉藤「そういう感じではなかったんですけど、〈最近どう?〉みたいな。ここで戻る、というはっきりした話はなかったんですけど、〈ちょっとスタジオ入ってみようか〉みたいな感じで始めて、〈よし、じゃあやろう〉ということになりました。ね?」

佐々木健太郎(ヴォーカル/ベース)「確か、飲みに行って、話をして。そこで、3人でまたやろうという感じになったんですけど。半分までアルバムの作業は進んでいて、そこでちょっと行き詰まり感みたいなものがあって。このまま行くのはバンドとしてもアルバムとしても良くないね、っていう話になって、そこを良くするために――バンドを続けていくために最善の方法は、州に戻ってきてもらうということだ、と。そういう感じで連絡しましたね。そしたら州も、ちょうどできる状態だったんで……っていう感じです」

斉藤「僕はそのことは知らなかったですけどね。行き詰まっているとかは」

 

自分を奮い立たせる意味でも、前向きな歌詞が多いのかもしれない

 

アナログフィッシュ_ライヴ1

 

――具体的にアルバムの内容についてですけど、前半の、斉藤さんが復帰するまでの半分はどんなコンセプトで作っていたんですか。

下岡「コンセプトはいつもなくて、今回もなかったんですけど――でもひとつ考えていたのは、1枚前の『Fish My Life』は、州がいなくなったことを踏まえて、いろんなドラムの人とやろうという感じで作ったアルバムだったけど、今回はサポートで入ってくれてるビッツくん(菱谷昌弘:ドラムス)と木村さん(木村ひさし:キーボード/ギター/コーラス)の4人でバンド・サウンドをちゃんと作ろうと。そういう感じで、前半は始めました」

――そして半分まで進んだところで、煮詰まった。

下岡「煮詰まったというか……音楽的に煮詰まったわけではなかったんですけど、二人でやっていても、もうこれ以上先がない気がして、僕が〈もうやめる〉という話をするはめになって。そこで健太郎が、〈やめるんだったら、俺はもう一回州とやりたい〉って言い出して。それができるんだったら、一応試してみないとフェアじゃないなと思って、〈じゃあやってみよう〉という話になって、州に戻ってきてもらったんです」

――下岡さん、メンタル的に、相当深いところまで行ってたんですね。

下岡「なんか、何もできないような気になってたんですよね。なんでですかね? 単純に不安な気持ちが、そっちに動いてしまっただけな気もするんですけど」

――こうして過ぎてしまえば、〈なんでそんなこと思ったんだろう?〉みたいな?

下岡「いや、今後もいつでも起こりうるな、といまだに思いますけど(笑)。でもまた州とやりだして、バンドがひとつに感じる瞬間があったから、それでもう気にならなくなりましたけどね」

――出来上がったアルバムを聴いて、そんな葛藤を乗り越えてきたとはちょっと思えないですね。前向きな曲ばっかりなのに、おかしいなって。

下岡「(笑)」

佐々木「逆に、自分を奮い立たせる意味でも、そういう詞が多いのかもしれない」

――ああ……なるほど。そうですね。話を戻すと、斉藤さんは復帰した後、前半に作ったものを聴いて、〈さて次はどうしよう?〉と。

斉藤「僕はそんな葛藤があったとか、やめるやめないとか、そういう話は全然知らなくて。で、前半で録った音を聴いて思ったことは、〈アルバムのメインの曲は全部入ってるな〉ということで。〈僕はこの後、何をすればいいんだろう?〉って思ったぐらい良くできていて、すごくいいと思いましたね。もちろん後半で作った曲も、いい曲ばっかりですけど」

――確認していいですか? 前半に録った曲というのは、何曲目と何曲目ですか。

斉藤「えーっと、1、2、3、5、10ですね」

――斉藤さんが戻ってきて、また物事が動きはじめて。

佐々木「そうですね。戻ってきて、ライヴもやらないままにレコーディングに取り掛かって。そこからずっとスタジオですね。夏ぐらいから」

 

あ、自分に対して言ってくれてる

 

アナログフィッシュ_ライヴ2

 

――3人での久々のレコーディングは、どんな気分でした?

佐々木「サポートのビッツくんと1年ぐらいずっといっしょにやってたんで、その感じが染み付いてて、最初に3人で音を出した時はちょっと合わないところもあったんですけど。曲作りを始めたらいつもの感じに戻ってきて、そこからはもう何の問題もなく、っていう感じですね」

下岡「サポートのみんなとやっていた時期は、家で宅録なり弾き語りなり、自分である程度大枠を作ってたんですよ。最終的にはみんなと打ち解けて、普通にバンド的にジャムって作るやり方もできたんですけど、基本的には一人で曲を作ることがすごく多くなっていて。でも州が帰ってきてからは、本当にまたバンド的な作り方ができるようになって。そういう作り方になると、州とはもう長くやっていて、共有しているところが多いから、展開が作りやすい。その久しぶりの感覚のおかげで、いままでよりもバンド・サウンドとして雑にできたというか――うちらはいままでの曲も雑っちゃあ雑だけど、実際は自分たちなりに時間をかけて繊細に作っていたりしていたんです。でも“Tomorrow”とかは本当にバンドの熱量だけで、というか、あんまり決め込まずに作っちゃったし。“曖昧なハートビート”も、久しぶりに州とリハに入りはじめた時に、州はいままでハイピッチでリムショットが鳴ってるスネアばっかり叩いてたのが、いきなりすごい低いスネアになってたから、それに感動して曲が出来ちゃったという感じだったし。そういう意味で、前半とはガラッと作り方が変わって、すごくおもしろかったです」

斉藤「そういう音が好きなんですよ、いま。前は〈カーン〉っていう抜けたスネアだったんですけど、そうじゃなくて80’sみたいな〈ボスッボスッ〉っていう感じが欲しくて、そういうスネアを買って、そういうチューニングで行ったら、そういう曲が出来たと」

――下岡さん、自分の曲に関しては、自身のなかのどういう要素を出せたと思いますか。

下岡「そうですね――さっきの話に戻っちゃうんですけど、前半のレコーディングをやってて、〈もう駄目だ〉みたいになってて。でもどうにかしなきゃっていう気持ちと、州が戻ってきて〈俺たち、行けるぞ〉っていう気持ちとが混じっていて、トータルではヴァラエティーに富んだ前向きさが出ましたね。“平行”とかは、その時に自分がやりたかったバンド・サウンドというか――僕らは〈グッド・メロディーでいい歌を歌うバンド〉という面を大事にしたいと思ってるんだけど、でもここではそうではなくて、もっとアナログフィッシュなりのロックな面を形にできた曲だと思うし。歌詞も、言ってることはすべて前向きとは言わないけど、先に希望を感じさせるものがあるし。そういう意味で、比喩とか韻で作った曲は今回はないし、ストレートな曲が揃ったなぁと思ってます」

――佐々木さんは?

佐々木「いままではメロディーが先で、詞は意味がなくても響きとかで書いていたところがあって。前の1行と次の1行はあまり関連がないみたいな曲の作り方をしてたんですけど、今回は、1曲でちゃんと誰でもわかる物語みたいにしたくて、そういうのをすごく意識しましたね」

――優しい曲が多い気がします。佐々木さんの曲って、アルバムに1曲は必ず〈チキショー〉とか〈うるせー〉とか叫ぶタイプの曲があったと思うんですけど、今回はない。

佐々木「そうですね。たまたまだと思いますけど(笑)。でも今回はそういう(優しい)曲ばっかりですね、気付いたら」

――例えば最後に入っている“ハローグッバイ”には、〈がんばろう!〉というとてもストレートな言葉があって、とても胸に響くんですけど、こういう言葉を選ぶのに照れとかはなかったですか。

佐々木「いや、これもけっこう、いままでだったらそういうことを歌えなかったんですけど、今回は歌いたいと思ったんですよ。で、何度も書き直して、これが出来て。自分の新しい詞がひとつ見つかったな、という感じですね」

――ラストにこの曲が入っていて、とてもいい気分になれます。斉藤さんは、ちょっと間をあけて戻ってきて、二人の詞と曲の世界観の変化とか、何か感じたことはありますか。

斉藤「前半に録れてたものを聴いた時に感じたのが、〈あ、自分に対して言ってくれてる〉と思うような歌詞だなって。聴いている人がすごく近しいというか、より見えるようになってきている。そういう面でもすごく良いものが出来てると思ったんですよ」

 

バンドを始めた頃は、ミッシェル・ガン・エレファントになりたかった

 

アナログフィッシュ_ライヴ3

 

――タイトル曲“Life goes on”のなかの、〈遠回りじゃないよ/まっすぐな道を蛇行しているだけ〉といういかしたフレーズが、レーベルからもらった資料のなかでドーンと強調されてるんですけども。キラー・フレーズですか。

下岡「どうですかね。でもまぁ、上手いこと言ってますよね(笑)」

――これは、自分たちのこと?

下岡「いやぁ、何ですかね。このフレーズ自体は、けっこう昔に作ったんですよ。というか、こういう曲を個人的にはけっこう作るんですけど、バンドでやるもんじゃないなと思っていたのが、やれるようになってきたという感じですね。こういうものも、バンドの表現としてアリだっていう気持ちになったので」

――バンドでやるもんじゃない、というのは、個人的なメッセージ性が強すぎるから?

下岡「いや、なんか〈いいこと〉というか〈沁みること〉みたいなのは、別にバンドでやらなくても弾き語りなり、そういう(ものが似合う)人がやればいいと思っていたから。でも実は俺、(甲本)ヒロトとかむちゃくちゃ好きなんですよね」

――あ、そうなんですね。

下岡「すごい好きなんですけど、自分はヒロトみたいな音楽のやり方はできないっていう気持ちが強くあるから〈そういうのはそういう人に任せて〉とか思っていたけど、俺もできるんだったらやってみたらいいじゃん、って。そういう気持ちになったというだけだと思うんですけど」

――好きな音楽とやれる音楽との間に、ひとつ屈折があったんですね。

下岡「だって俺たち、バンドを始めた頃はミッシェル・ガン・エレファントになりたかったんですよ」

――えっ。初めて聞いた気がする。

下岡「ミッシェル・ガン・エレファントになろうと思って、健太郎とバンドを始めて、なれないとわかるまでにけっこう時間がかかって(笑)。その時に、人には向き不向きがあって、やれることをやんなきゃ駄目だっていう――そういう大きな転機があったんですよ、自分のなかで。だからこういうのは、こういうのができる人がやればいいと思ってたんですけど、この年になって、やろうかなという気になったという」

――素晴らしいです。前作に入っていた“Sayonara 90's”も、非常にメッセージ性の強い、沁みる曲でしたし。そういうのが、徐々に増えてきているのは嬉しいです。

下岡「確かに。そういうモードにだんだんなってきてるのかな」

斉藤「同世代にウケがいいよね」

下岡「そうだね。同世代と、CD買わない人たちにウケがいい(笑)。パソコンで済ます人に(笑)」

――そしてツアーが、4月から始まります。

佐々木「全国6か所です。このアルバムのなかでライヴでやってない曲もあるんで、どうなるんだろうって。すごい楽しみですね」

下岡「そうだね。たくさんの人に来てもらいたいですね。久しぶりに北海道とかにも行けるし、いいツアーにしたいです。州が戻ってきてから、本当に1本もライヴを外してなくて。いま、すごいんですよね。なるべくこの奇跡を持続させたいと思ってるんですけど」

――では今日の主役の斉藤さん、締めの言葉をお願いします。

斉藤「何も考えてなかった(笑)。そうですね、僕ら、ツアーを大成功させる気満々なので、たくさんの人に来てほしいです。だって、全部ワンマンですよ。あたりまえだけど、それはすごいことだから。1本目の北海道から始まって、最後の渋谷CLUB QUATTROまで、最初から最後まで必ずいいライヴをやるので、絶対遊びに来てください。ライフ・ゴーズ・オン!」

下岡「カッコ良いね(笑)」

 

 

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カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2010年02月10日 17:59

更新: 2010年02月10日 20:15

インタヴュー・文/宮本英夫

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