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インタビュー

Seiho 『ABSTRAKTSEX』



有機的な温もりと艶やかな白昼夢。この艶やかに揺らぐシンセの海から、ビートの滴りから、才気の迸りから、あなたは何をフィールする?



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何はなくとも“I Feel Rave”だろう。インターネット上を駆け巡った(という書き方によってある種のイメージを植え付けてしまうとしたらアレだが……)この曲は、フロア・アンセムたりうる即効性を備えつつ、どこかセクシャルでインティメイトで有機的な情緒も湛えた、不思議なフィーリングに満ち溢れていた。いずれにせよ、その担い手となるSeihoの完成させた待望のアルバムが『ABSTRAKTSEX』という表題なのも、実に合点のいく流れではある。

「『ABSTRAKTSEX』というタイトルをつける前に90年代前半の情報誌を読んでいて、インターネットを通じたコミュニケーションとして、〈ヴァーチャルセックス〉〈シミュレーションセックス〉のことがよく書かれてて、現在の〈SNSで出会って〜〉とかじゃなく、物理的な快楽をヴァーチャル世界に転送できるかの議論をしていることに凄く興味を持って、そういうタイトルにしたかったのですが、あまりに生々しい語感だったのでABSTRACTを選びました。CがKなのは、デザイン面とドイツ語表記にすることで学術用語っぽく表現したかったからです」。

そう語るSeihoは大阪出身のビートメイカー/DJ/VJ。大学の同窓だというAvec AvecのSugar's Campaignにおけるバンドメイトでもあり、にわかに注目度を上げつつあるDay Tripperの主宰者でもある。Day Tripperとは、「2011年の大阪に電子音楽やビートメイカーが活動する場所は、そんなに多くありませんでした。細かいジャンルで言うとバラバラのクリエイターが、同じブッキンで顔を合わせることから、自分たちのイヴェントを作ることになりました」という経緯で発生したイヴェント〈INNIT〉を契機とする関西のレーベルだ。

その第1弾CDこそSeihoのファースト・アルバム『MERCURY』だったのだが、あえて言うならLA系のビート世代にも通じる音像をより滑らかに展開したものが同作のカラーだったとしたら、今回の『ABSTRAKTSEX』はジュークやトラップの流れを通過したビートが大らかなシンセの煌めきに包まれた、よりキュートで艶かしいものに変化している。

「フィジカル・リリースにこだわってる一つとして、更新や削除できないアーカイヴとして残ることを意識しています。いまの時代の匂いみたいなものは残したいし、文面で音楽ジャンルが残ったとしても〈当時どういう感覚で作ってたのか〉は作品を聴くことにしか感じられないので、なるべく〈いまの音〉や〈いまの感覚〉は作品の中に投入するようにしています」。

フィジカルへのこだわりはDay Tripperのモットーにも掲げられているものだが、同時にいわゆる〈楽曲集〉ではなくアルバムという〈形式〉にも意味があるようだ。

「Day Tripperがリリースしているものは必ず〈アルバム〉です。音楽は時間の芸術なので、曲順を変えて聴くのは自由ですが、こちらとしては全体でひとつの作品です。それは、僕がジャズやプログロックが好きなことが原因かもしれません」。

そのこだわりは『ABSTRAKTSEX』にも明白だろう。バランスを考え抜かれた楽曲群は、カラフルでありながら一貫した情緒もある。“I Feel Rave”で興味を持ったリスナーを驚かせながらも、同時に期待通りの心地良いエロティシズムでその耳を包み込むに違いない。

「“I Remember RHEIMS”や“Evning”、“Gynoid Feminism”“Heaven”などはエロスをかなり意識してます。ただ、男性的なエロではなく、女の子に〈この曲エッチで好き〉って言ってもらえる曲を作りたかったんです。シルクみたいな手触りだけど、肉体的な温かみもあって、崩れそうな柔らかさと、いきり立つ硬さが共存してるような音を意識しました」。

柔らかさと硬さ。そこから連想されるのは、本人も「90年代のR&B、ヒップホップは影響してると思います」と認める通り、往時のR&B/ヒップホップに顕著だった質感だ。フォースMD'sやボーイズIIメンを即座に思い出させるメロディー感の“I Feel Rave”もそうだったが、T・ペインやドリームらが試行したチョップ&スクリューやトラップ&スナップ時代のミニマルな人懐っこさもアルバムの随所から感じ取ることができたりして、これはもう本当にフィールする人を選ばないと思う。「次のリリースのEadonmmも本当に凄い作品を作ってるのでぜひお楽しみに」と語るDay Tripperの今後も含め、この才人の動きには注目しておきたい。



カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年06月27日 20:40

更新: 2013年06月27日 20:40

ソース: bounce 356号(2013年6月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次