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インタビュー

THUNDERCAT 『Apocalypse』



雷鳴が轟いて、そこにまた別の宇宙を見る。名だたるミュージシャンたちを虜にしてきた猫まっしぐら。どこにもない次元へと上昇を繰り返す新たなコズミック黙示録は、いまここから生まれてくる……



Thundercat_A

フライング・ロータスが音楽的に成し遂げてきた成果は計り知れないとして、ブレインフィーダーを率いるスティーヴ・エリソンとしての最大の功績は、サンダーキャットことスティーヴン・ブルーナーを現在の在りようへと導いたことかもしれない。 世界的なジャズ・ドラマーのロナルド・ブルーナー(・シニア)を父に持ち、兄のロナルド・ジュニアもドラマーとしてロイ・ハーグローヴらと共演、スタンリー・クラーク・バンドの一員としてグラミー受賞歴もある、そんなジャズ一家に生まれ育ってベースを選んだサンダーキャットは、高校時代からスイサイダル・テンデンシーズの一員としてワールド・ツアーを経験し、一方でスタンリー・クラークのツアーにも帯同するなど、そのスキルとセンスでクロスオーヴァーを果たしてきた。が、彼の宇宙を押し広げたのは、ソロ・アルバム『The Golden Age Of Apocalypse』の制作を推進し、サウンド面の振り幅を拡張させながらヴォーカリストとしての成長を後押ししたフライング・ロータスに他ならない。そして、同作によって自信を深めたサンダーキャットは、ふたたびブレインフィーダーから帰ってきた。結果としてそのセカンド・アルバム『Apocalypse』から窺えるのは、まだまだ明かされていなかった主役の恐るべきポテンシャルである。「とりあえず作り終わってほっとしているところだよ」という彼に話を訊いた。



関係性が音楽になる

——初めてのソロ・アルバムを作った後に、改めてミュージシャンとして見えてきたこと、湧いてきた野心のようなものはありましたか?

「特に目標とかはなくて、自然に身を任せてこれからも良い音楽作りができたらと思ってるよ。自分の可能性やそれを実現できることに感謝して、それをやり続けるのみだね」

——前作でインタヴューした際には〈アルバムを作ろうと思ってたわけじゃなく、書きためた曲が集まった〉という話でしたが、今回はどうでしたか? 初めからアルバムを作る意識があったようにも思える内容なのですが。

「いやいや、前作と同じように、自然に曲が出来てアルバムになっていった感じだよ。音楽って湧き上がるものだと思うから〈作ろう〉って机に向かったりして出来るものじゃないじゃない? 俺は自然の流れに身を任せるよう心掛けているから、意識して何かをしようと思って始めたりすることはあまりないかな」。

——では、アルバム・タイトルが『Apocalypse』ということで、前作と新作はどういう位置関係にあるものなんですか。連作なのか、発展型なのか……。

「タイトルは冗談みたいな感じでつけたんだよ。皆を惑わそうというか、自分自身のパロディーという意味からだよ(笑)。自分のことをジョークとして見る感じ。タイトルは特につながっているというわけじゃないんだけど、俺自身のアルバムだから成長しているという意味で発展型という部分はあるかもしれないけどね。でも同時に、いまは俺にとってある一つの時代の終わりを意味するのさ」

——参加ミュージシャンですが、パリのアドリアン・フェローは今回も参加していますね。

「みんな俺の尊敬しているミュージシャンだから彼らが参加してくれたことにとても感謝しているし、そのおかげで素晴らしいアルバムが出来上がったと思ってる。とてもありがたいよ。みんなそれぞれ違った役割を果たしてくれたしね。それぞれの人たちとはユニークな関係を持っているから、その関係性が音楽という形となって表れるんだ。アドリアン・フェローはベースで貢献してくれた。アドリアンのおもしろいのは、いつもアイデアに溢れてるところだ。ヤツは俺と同じ楽器を弾くから、いっしょの作業は毎回とても楽しいよ」

——元マーズ・ヴォルタのトーマス・プリジェンはどうですか?

「あいつとの共同制作もいつも大笑いしてる。あいつはドラマー版ジェリー・ガルシアだね」

——同じ曲には、デルフォニックスやゴーストフェイス・キラーを手掛けて話題のエイドリアン・ヤングも参加していますね。

「エイドリアンはとても仕事が細かいんだ。曲を聴くと、彼がレコーディング中やレコーディング後に精確に音をミックスしているのが聴き取れると思う。彼は本当に才能のあるエンジニアだ。彼といっしょに制作ができて楽しかったね」

——そんな新作を作るにあたって、自分に設けた課題のようなものはありましたか?

「さっきも言ったけど、自然のまま作るということをいつも心掛けているね。でもいろんな意味でチャレンジングな部分もあったかな。俺はまだまだ勉強中だから、いろんなことがチャレンジになるんだよね。確かに俺の歌が前作よりもたくさん入っている。ロータスが〈このアルバムではお前がもっと歌ったほうがいい〉と言って勧めてくれたんだ。俺とロータスはいつもいっしょに音楽をやっているから、俺たちの関係自体は特に変化はないけど、前作との違いなら、俺のヴォーカルがより多く収録されていることだね」

——どちらかといえば前作は演奏家としてのテクニカルな側面が強かったのですが、今回はもう少し成熟したマイルドな雰囲気作りに主眼が置かれているように思えます。そのあたりは意識した部分ですか?

「うん、その通りだよ。前よりもっと全体の雰囲気を重視したアルバムにしようと試みた部分はあるよ。全体的にナチュラルな流れとマッチするようにまとめたつもり。前作よりヴォーカルを多くしたりするのは意識した、というか努めてやったんだ。最初、俺自身は自分が歌うことに対して少し抵抗があったんだ。でも、ロータスが〈このアルバムではお前がもっと歌ったほうがいい〉と言って勧めてくれたんだ」



まだ伝えたいことがある

本人がそう語るように、今回はフュージョン的なグルーヴのフィーリングが少し後退し、浮遊感に富んだアトモスフェリックなサウンドと流麗な歌声が分かち難い密接さで寄り添うことによって、より大らかな音像を作り出している。つまり、演奏よりも歌そのものがプログレッシヴなサウンドの構築美や展開を舵取りしているのだ。

——確かに今回もっとも興味を惹かれたのは、ヴォーカリストとしての成熟だと思います。あなたにとって自分で歌うこととはどんな意味を持つのでしょう?

「とても重要な意味を持ってると思う。詞に関しても俺自身が伝えたいことを歌っているしね」

——曲名についてなのですが、“Life Aquatic”はウェス・アンダーソン監督の映画と、また“Evangelion”は日本のアニメと関係あるのでしょうか?

「(興奮気味に)あるある! どちらも俺のお気に入りなんだ。だからわざとこの2つを連想させるような感じで作ったんだよ。俺は日本のアニメが凄く好きなんだけど、その中でも『エヴァンゲリオン』は最高さ。エヴァは当然観てるよね? あれは本当にクォリティーの高さに驚いたよ。シリーズは最後まで全部見たけど、エンディングが壮大だった。シンジや、彼を取り巻く女性たち……キャラクターの使命や運命。そういうのを見ていると、人生の現実について学ばされている感じがした。死はあらゆる生に付随する、ということ。〈Apocalypse=黙示録〉は〈Evangelion=福音〉の終わりを意味する。曲のタイトルが“Evangelion”で、それがアルバム『Apocalypse』に入っているのは壮大な意味を持つのさ」

——ブレインフィーダーといえばこれも伺っておかなきゃならないのですが、終曲のメドレーのうち“A Message For Austin”は、前作でも鍵盤で参加していた故オースティン・ペラルタに捧げたものですね。

「(急にトーンが落ちて)これは彼に捧げた曲なんだ。前回の来日は俺にとって非常に悲しい出来事だった。オースティンの死の直後に日本へ発ったんだ。日本に1〜2週間いること……変に思われるかもしれないが、それが彼の死に対する俺のリアクションだったんだ。彼といっしょに仕事ができたことは本当に誇れることのひとつだね。すべてにおいて素晴らしい奴だったよ。“A Message For Austin”は彼に〈さよなら〉を伝えるために書いた曲なんだ。俺自身も彼がいないことを受け入れなくちゃと思って……」

現在のブレインフィーダーについては、「正直言って本当に素晴らしいよ。レーベルの奴らとは皆兄弟みたいな感じなんだ。お互い刺激を受けて、人間的にも音楽家としてもイイ奴ばかりでさ」と語る。そんな絆が結ばれていたからこそ、早世したオースティンへの思いも深くなるのだろう。ちなみに冒頭の「作り終えてほっとした」という言葉に続けて、彼はこう話してもいる。

「でも、まだ作り終わった気がしない。まだ始まったばかり、というか。完成しても終わった感じではなくて、まだ伝えたいことがたくさんあると思っているんだ」。

卓越した技量に深い感情が重ねられていくならば、この先も彼の宇宙には鮮やかな雷鳴が閃き続けていくことだろう。



▼関連盤を紹介。
左から、サンダーキャットの2011年作『The Golden Age Of Apocalypse』(Brainfeeder)、フライング・ロータスの2012年作『Until The Quiet Comes』(Warp)、スイサイダル・テンデンシーズの2013年作『13』(Suicidal)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年06月27日 20:30

更新: 2013年06月27日 20:30

ソース: bounce 356号(2013年6月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次 写真/B+