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インタビュー

MOUNT KIMBIE 『Cold Spring Fault Less Youth』



時代を拓いた『Crooks & Lovers』から3年……ついに彼らも歌いはじめた! ここに蠢く美しき新次元のダイナミクスを、あなたは、いつ、どこで体感するか?



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以前とは違う音を作っている

ブリアルやジェイムズ・ブレイクと共にダブステップ以降のエレクトロニック・ミュージック界をリードするパイオニア、マウント・キンビーがワープへ移籍して待望のセカンド・アルバム『Cold Spring Fault Less Youth』を完成させた。今回、彼らへの期待を窺わせるように、収録曲のひとつ“Made To Stray”がラジオでプレイされるや、それを聴いた人物が我先にウェブ上へとアップ。それに追随して主要な音楽メディアがこぞって取り上げ、マウント・キンビーの周辺は瞬く間にヒートアップするという事態があった。

「とてもスピーディーな出来事だったよ。ちょうどスタジオでアルバムをマスタリングしていたんだけど、“Made To Stray”が出来上がって2分後にベンUFOに曲を送った。その1時間後、彼はラジオで曲をかけてくれたんだ。だからとても速い流れで物事が起こっていた。ベンのようなDJからサポートを得ることができるのは嬉しい」(ドミニク・メイカー)。

「しばらく新曲を出していなかったから、いまの俺たちが以前と比べて少し違った音楽を作っているというのを知らせるのはエキサイティングなことだった」(カイ・カンポス)。

ニュー・アルバムは、前作『Crooks & Lovers』のダブステップとアンビエントを融解させた幻想的な雰囲気を踏襲するも、先述の“Made To Stray”を筆頭に新しいエッセンスが随所に仕込まれ、フレッシュかつ力強い作風へと大胆な進化を遂げている。その変化のひとつがヴォーカルだ。

「パーカッションやその他のさまざまな手段でメロディックな表現をするのに、俺たちは少し疲れたんだと思う。だから、今回の曲作りにおいてはヴォーカルをその手段として選んだ。言葉でも何かを伝えたいというより、まず自分たち自身を前面に出したいという部分があった。リリックの重要度はその後にくるもの。だから、ヴォーカルもスタジオにある他の楽器と同じように扱ったよ」(カイ)。

〈声〉を素材の一部として捉える感覚は変わらないようだが、今作を聴くとヴォーカルの比重が大きく増し、以前よりも明瞭な響きを伴って耳へ飛び込んでくることに驚かされる。そんな彼らの変化はアルバムに新風を吹き込んだだけでなく、意外性に満ちたコラボレーションをも生んだ。それが「俺たちが前から好きだったアーティスト」(カイ)であり、アルバム唯一の共作者でもあるシンガー・ソングライター、キング・クルーとの間に誕生した2曲だ。2010年、16歳の時にズー・キッド名義で鮮烈なデビューを飾ったキング・クルー。とても10代とは思えない哀愁に満ちた音楽性で話題の彼だが、マウント・キンビーとの共演においても渋い歌声を聴かせ、ハイライトのひとつを作り上げている。



質感が変化した理由

さて、もうひとつの重要な変化にも触れないわけにはいかないだろう。それは楽器の肌触りを感じ取れるという点だ。その質感は曲作りの要になったという「デイヴ・スミスのドラムマシーン〈テンペスト〉を購入した」ことが影響しているとドミニクは説明してくれたが、もっとも大きなターニング・ポイントはスタジオを移したことだとも付け加える。

「アンディ・ラムジーという人のスタジオで、そこにはたくさんの生楽器がセットアップされている。ドラム・キット、数多くのギター・アンプ、いろいろな種類のギターやベース、そしてヴィンテージのドラムマシーンのコレクションもある。もともとはそこで1日か2日過ごす予定でスタジオ入りしたんだけど、結局いろいろな音をレコーディングして、2週間いたんだ。その時レコーディングしたドラムなどのサウンドが、今回のアルバムの音にそのまま繋がったと思う」。

結果としてアレンジの幅が広がり、楽器がちょっとしたアクセントになっている場合もあれば、まるでバンドがプレイしているかの如きライヴ・フィーリングを手に入れた楽曲もある。その最たる例は、彼らが以前からライヴで披露していた“So Many Times, So Many Ways”だ。

「ドラムのパートをライヴで録音しようと試みたんだが、上手くいかなかった。自分たちがドラマーになってプレイしてみたけど、タイトなサウンドになってしまってクリーンな感じがした」(カイ)。

「結局、ドラムの演奏を録音して、そのパートをカットしてサンプルにし、ドラム・ループにして再生した。その上からベースとキーボードの演奏をレコーディングしたんだ」(ドミニク)。

〈何回も、何通りもの方法で〉——制作時の苦心がそのままタイトルにつけられたこのインスト曲は、穏やかだが彼らの豊かな音楽性を主張するように新鮮味に溢れている。

もともとマウント・キンビーの曲は多様な音楽を混合することによって構築されていたが、それを裏付けるように「ジャズもたくさん聴くし、レッチリも聴く。俺はインディー・ロックも好きだ」とドミニクが言えば、「自分が作る音楽とはまったく違う感じのものにインスパイアされて、曲を作りたくなる時がある。俺の場合はミカチュウだね」とカイも続き、エレクトロニック・ミュージック以外(ちなみにダンス・ミュージックでは2人ともアクトレスの名をお気に入りに挙げている)への関心も示す。そういったところに彼らのユニークさの秘密が隠されているのだろう。



▼マウント・キンビーの作品。

左から、2010年作『Crooks & Lovers』、2011年のEP『Carbonated』(共にHotflush)

 

▼2011年にリリースされたキング・クルーのEP『King Krule EP』(True Panther)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年06月20日 20:00

更新: 2013年06月20日 20:00

ソース: bounce 355号(2013年5月25日発行)

インタヴュー・文/青木正之 写真/クリス・ローズ

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