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インタビュー

星野源 『Stranger』

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星野源の3rdアルバム『Stranger』は、様々な意味合いを持った金字塔中の金字塔だ。嫌が応にも生と死というものに敏感かつ神経質になっている今の僕らに、このアルバムは<何気ない日々を生きていること自体が一つの奇跡なんだ>という喜びと残酷さの両方を、見事なまでに音楽という豊かなメッセージにして歌い鳴らしている。それはきっと、大衆音楽として最も望まれる<心の音楽集>そのものだと思う。



病院の中で散歩しながらずっと聴いてて、ノイローゼみたいに作ってたのに、<よくやったな、俺!>と思いました。

 音楽好き以外にもニュースとして飛び交った、「星野源、くも膜下出血にて手術」というニュース。この病に陥ったのは、まさにアルバムレコーディングの終盤戦のスタジオの中だった。

「1曲目の“化物”っていう曲が、アルバムの中で一番最後にできた曲で。その歌詞が納得行かなくってっていうのをずっと繰り返してレコーディングの日になったんです。最後は全部納得できる形まで行けて、それでレコーディングをして、<あぁ、全部録音し終わったな>と思って“化物”のプレイバックを聴いてた時に、くも膜下出血になったんです。とは言え、意識がなくなったとかっていうことはなくて、本当に幸いなことになんの後遺症もなかったので、あの瞬間から今の今までずっと地続きではあるんですけど……退院1週間くらい前に、音楽がやっと聴けるようになったんです。で、この曲達をiPodで聴いた時に、なんて言うか、別人のものみたいだったんですよ。今の自分じゃないみたいで(笑)。たぶん、相当追い込んでいたんだと思うんですよね、作ってた頃は。倒れた“化物”のレコーディングの日に、あまりに詞ができなくて自分のことをボコボコに殴ったりとかしてたんで、その日がどピークだったと思うんですよね。……で、ピークの一番ピークの時に倒れたっていう。たぶん、ブレーキをかけられたんだと思うんです、<これ以上行ったら死ぬよ>っていうブレーキを」

どれだけ言葉を重ねても表せない体験をした星野は、闘病中もこのアルバムの事が頭の中から片時も離れなかったという。

「病院の中で散歩ができるようになって、散歩しながらずっと曲順考えてたんですね。それで一番最初からの3曲、“化物”、“ワークソング”、“夢の外へ”っていうのを並べた時に、あんなに辛かったのに、もの凄いノイローゼみたいに作ってたのに、このアルバム明るいな! と思ったんですよ(笑)。なんか聴いてて、元気になったんです。<これはよくやったな、俺!>と思って。ちゃんとやることをやって倒れたんだなって思えたんですよね。……あれは病院のコインランドリーで。そのコインランドリーは凄い高いところにあって、凄いいい天気だったんで富士山が見えたんですよ。その富士山を見ながらこの3曲聴いたら、<いいなぁ~>と思って。だから、1回死んだ俺が死ぬ前に残してくれたものを受け取って、死んだ俺には判断できなかったであろうちょっと冷静な部分で全体を構築して、曲順を考えて、『Stranger』というタイトルをつけて完成したっていう感じなんです」



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 フォークソング的な、弾き語り性の強い表現方法でソロとして登場し、徐々にその音楽的な裾野の広さを表して来た星野だが、このアルバムはまさに彼の音楽観が満開になっている、<節目の3枚目>にふさわしいアルバムだ。ジャズ、フォーク、ゴスペル、ブルース、ソウル、そして歌謡曲。それらがまるで近所の公園に一気に集まって、言語やルールの壁を越えて、共に祝祭を繰り広げているような、音楽ならではの自由さと緊張感が折り重なった楽曲が続いてゆく。

「まだできたばかりなので、あんまり客観的には見れてないんですけど。なんかね、このアルバムって自分で聴いてると凄く嬉しいんですよ。達成感もあるし、作りたいと思っていたヴィジョンが自分の予想を超えたいい形で完成したと思うので、それは前のアルバム(『エピソード』)も前の前のアルバム(『ばかのうた』)もなかったことなんです。その分苦労したっていうのもあるんですけど、より嬉しいアルバムになりました。だって自分で何回も聴いてますから(笑)」

このアルバムの殆どは、星野が病に伏せる前に出来上がっていたものだ。つまり、このアルバムの素晴らしさは、この2年間の彼の成長と進化、そして昇り続けた人気と信頼の結晶そのものなのである。しかし現実的にこのアルバムを待っている僕らは、彼が重い病から帰還したというトピックを踏まえて耳にする事になると思う。そういう、いろいろな意味でピークなタイミングで星野が重い病に倒れた事、そしてその時彼が作っていた音楽が、必ずや2013年という時を象徴するほどの最高傑作になったこと。何よりこのアルバムが、ポップミュージックとしての奥行きと広がり、時代と孤独、日常のあたたかさと厳しさのすべてを響かせている事を、僕らは心から感じ、自分の音楽にすべきだと思う。

よかった、本当にこのアルバムが聴けて、よかった。


 

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■Album……『Stranger』 now on sale!

SONG LIST

1.化物
2.ワークソング
3.夢の外へ (※3rdシングル資生堂アネッサ2012CMソング)
4.フィルム (※2ndシングル 映画『キツツキと雨』主題歌)
5.ツアー
6.スカート
7. 生まれ変わり(※第一生命CMソング)
8.パロディ (※映画『ぱいかじ南海作戦』主題歌)
9.季節 (※MUSIC ON! TV "シーズン・グリーティングID"ソング)
10.レコードノイズ
11.知らない
12.ある車掌 (※NHKアニメ『おじゃる丸スペシャル 銀河がマロを呼んでいる ~ふたりのねがい星~』エンディングテーマ)

■Single……“ギャグ” now on sale!

■SONG LIST
01.ギャグ(※映画「聖☆おにいさん」 主題歌)
02.ダスト

■Live……星野源 ワンマンライブ「STRANGER IN BUDOKAN」

初の日本武道館公演!
7/19(金)東京・日本武道館

■PROFILE…星野源(ほしのげん)

音楽家・俳優・文筆家。『Stranger』の翌週にシングル“ギャグ”を発売。7月に武道館公演を開催。13年は初主演映画「箱入り息子の恋」、映画「地獄でなぜ悪い」、アニメ映画「聖☆おにいさん」に出演する。



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記事内容:TOWER+ 2013/5/10号より掲載

カテゴリ : COVER ARTIST

掲載: 2013年05月10日 00:00

ソース: 2013/5/10

TEXT:鹿野 淳(MUSICA)