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インタビュー

SNOOP LION 『Reincarnated』

 

好奇心旺盛な猛犬が獲得した、ピュアな獅子のヴァイブス

 

生まれ変わり

「ファンのみんなに俺といっしょに旅をしてもらいたかった」——LAはハリウッドのスタジオで、スヌープ・ドッグ、否、スヌープ・ライオンは今回のプロジェクトについて、こう締め括った。「ファンは俺が何をしても、俺に何が起きてもずっとついていてくれた。彼らを残して、レゲエに飛びつくわけにはいかないから、説明するために映画を作ったんだ。俺の経験、考えをドキュメンタリー映画にしたから、それを観てもらいたい」。

〈西海岸ヒップホップ〉の雄から全世界的セレブ・ラッパーに登り詰め、さて、そこからどこに行くかと思ったら、ジャマイカに渡ってライオンを名乗り、レゲエに傾倒。『Reincarnated』(=生まれ変わり)と題したドキュメンタリー・フィルムとアルバムを作って世間を驚かせた(映画の邦題は『スヌープ・ドッグ/ロード・トゥ・ライオン』)。やれ、話題作りだの、ミッドライフ・クライシスだの意地悪な意見もあるものの、 レゲエどころか最近のアーバン・ミュージックでも珍しいほど豪華な客演と制作陣を揃えた〈生まれ変わり〉アルバムのリリースを間近に控え(執筆時)、さっすがスヌープという評判を取っている今日この頃。

ディプロが総指揮を取ってジャマイカの最高級スタジオ、ジー・ジャムで本人の希望通りにルーツ・レゲエを基調とした作品を作った、というだけでファンはOKなのに、ドレイクにエイコン、リタ・オラ、クリス・ブラウン、バスタ・ライムズ、T.I.らアーバンの人気者、TVの子役からアーティストに脱皮中のマイリー・サイラスやダーティ・プロジェクターズのアンバーといったびっくり系に、ミスター・ヴェガス、カリー・バッズ、マヴァード、ポップカーンとレゲエ人脈もしっかり押さえて春にふさわしいワッショイ!な顔ぶれ。そうそう、元ポリスのスチュワート・コープランドも最新シングル“No Guns Allowed”でドラムを叩いている。娘のコリー・Bと歌っているコンシャスなこの曲には、ドレイクも参加。

「彼はパーティー・ソングで知られているからこそ声をかけた。俺も同じで、 みんなが予想したのとはまったく違う内容をやるのは、ディープだろ」。

客演が増えた理由は、「俺の歌のパートが終わってから、完璧にするためにピースを足していった。プロデューサーと相談しながら、自分で決めた。この業界には俺と仕事をしたがっている奴はいっぱいいても、ぴったりのプロジェクトがなかなかなかったし。クリス・ブラウンは彼の曲に参加したから、こっちにも参加してもらった。バスタ・ライムズは映画を観て申し入れてきて、クリスと同じ曲に参加してもらった」。

 

俺なら橋渡しができる

みんなをがっちり受け入れるあたりも〈ライオン〉なのだ。ただし、この作品の中心はあくまでもスヌープの歌……はい、ラップでなくて、歌なんです。“Sensual Seduction”のヒットあたりから一曲丸ごと歌っていたスヌープさん、今回は歌いまくり。

「違う声、違うアプローチ、違うメッセージ、違うサウンドを届けたかった。俺にはラップの声があるけれど、もう一つの声を使ってみたかったんだな。ラップしてしまうと、その声の出番は少なくなる。 フックでちょっと歌って、ラップしてブリッジがあって……って流れになるだろ。今回は歌を前面に押し出して、ラップを切り離してどこまで出来るか試してみたかった」。

映画を観ても、彼と話しても、スヌープがジャマイカやレゲエに対して持っているのは親近感と深い愛情であって、知識ではないのが伝わってくる。そこは、本人も潔く認め、知ったかぶりをしないのには驚いた。ただ、レゲエそのものの立場とヒップホップとの関係についての理解度は、師匠レヴェル。

「どちらも同じところから出てきて、同じエネルギーで出来た音楽だ。レゲエとヒップホップをよくよく聴くと、ライム、メロディー、アドリブもとても似ている。レゲエはパトワで歌われているというスタイルの違いはあるけれど、どちらもユニヴァーサルな存在だ。別々になっているのは、まぁ、そういうものだから仕方ないけれど……俺がレゲエに取り組むことで、両者がひとつになるんだよ。だって、俺自身がヒップホップだから。俺がレゲエの世界を訪れることで、橋渡しできる」。

「スヌープ・ライオンはオルターエゴでもあるし、スヌープ・ドッグが成長した姿でもあるんだ」と言いつつ、「時々はスヌープ・ドッグに戻らないと。ライオンになって、俺がソフトになったとか思われたら困るから、たまに(ドッグの)ボタンを押して切り替える」と、例のギョロ目をギラッと光らせた。

キングストンでも特に危険な地域と言われるチボリ・ガーデンも、「家に帰ったような感覚だったよ。ジャマイカにいる気さえしなかった。人々、環境、あそこにあるヴァイブ……俺が生まれ育った場所と同じだ。もてなし方とか生活の仕方とか、すごく馴染みがあったな」との感想。レゲエが内包する痛みや、それを乗り越えて人生を祝する術を、スヌープは最初から共有している。彼なりの〈ザイオンへの道〉の筋が通っていて、このアルバムからジャマイカ産のレゲエと同じだけの癒しとパワーがもらえるのは、そこに理由があるのだ。

 

▼『Reincarnated』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

左から、マヴァードの2009年作『Mr. Brooks... A Better Tomorrow』(VP)、カリー・バッズの2007年作『Collie Buddz』(Columbia)、Mrヴェガスの編集盤『Sweet Jamaica』(MV)、ジャーダン・ブラッカムーアの2009年作『Buzzrock Warrior』(Gold Dust/!K7)、ドレイクの2011年作『Take Care』(Young Money/Cash Money/Republic)、エイコンの2008年作『Freedom』(SRC/Universal)、マイリー・サイラスの2010年作『Can't Be Tamed』(Hollywood)、バスタ・ライムズの2009年作『Back On My B.S.』(Flipmode/Universal)、ダーティ・プロジェクターズの2012年作『Swing Lo Magellan』(Domino)

 

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年05月08日 18:00

更新: 2013年05月08日 18:00

ソース: bounce 354号(2013年4月25日発行)

インタヴュー・文/池城美菜子

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