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インタビュー

EGO-WRAPPIN' 『steal a person's heart』

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静謐なピアノの響きで幕を開けるエゴ・ラッピンの新作『steal a person’s heart』は、聴き手にそっと語りかけてくるような、パーソナルで親密な空気のアルバムだ。森雅樹のギターは今回も攻撃的だが、ボーカルの中納良恵が要所でシンセ・ベースを弾くなど、サウンド面での新基軸も多々見られ、ふたりはまたしても新たな地平へと踏み込んでいる。



震災でみんな大変だったからこそ、優しい気持ちで素直な歌詞も書けた。優しい人がいちばん強いと思う。

1曲目“水中の光”のイントロを聴いた瞬間、エゴ・ラッピンはまたしても新たな地平へと歩を進めたのではないか、という予感が脳裏をよぎる。滴り落ちるようなピアノが柔らかに波紋を広げ、力みのない中納良恵のボーカルが耳をそっと撫でる。それに寄り添う森雅樹のギターもナチュラルで淀みない。 前々作『EGO-WRAPPIN’AND THE GOSSIP OF JAXX』、前作『ないものねだりのデッドヒート』のアグレッシヴな幕開けとは明らかに異なる感触――。エゴ・ラッピン8枚目のアルバム『steal a person's heart』は、この“水中の光”が象徴するように、ほぼ全曲がミディアム・テンポで統一されており、パーソナルで親密なムードに貫かれている。中納が2007年にリリースしたソロ作『ソレイユ』にも通じる、シンガー・ソングライター的な内省も感じられる、熟れた味わいだ。

森雅樹(Gt.):“水中の光”がいちばん最初にできた曲なんですよ。よっちゃん(中納)が<こんな曲ができたんだけど>って、ピアノでシンプルな弾き語りを聴か せてくれたんですけど、とにかく素直だった。ニーナ・シモンのアルバムを聴いているみたい。<やさしい風が坂を登るよ/君に一番 早くに伝えたいんだ>っていう歌詞も素直でキュンとくるし。

中納良恵(Vo.):そう、素直ですよね。これまでどこか斜に構えていたのが、今回、<愛している気持ちが言葉になって/過去になってしまう前に>なんて歌詞も普通 に書けた。もう、そういうことを言ってもええし、それを言えるのが音楽の強みじゃないかなって思ったんです。たぶん、震災の影響が大きかったんでしょうね。みんな大変だったからこそ、私も優しい気持ちになりたいし、みんなにもそうなってもらいたかった。優しい人っていちばん強いんじゃないかと思って。

これまでパンチの効いた凄みのある歌唱で圧倒することの多かった中納だが、本作では終始余計な気負いがなく、聴き手を優しくつつみ込むような滋 味溢れる歌声を聴かせている。力業で強引にねじ伏せるのではなく、静けさの奥底に秘めた熱をそっと伝えるような唱法。「曲調が変わったことで歌い方が優しくなった。肩の力が抜けたんです」と中納が言う通り、<柔よく剛を制す>という形容がぴったり当てはまる。



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勿論、サウンド面でも新たなトライアルは多々見られる。ファンク・チューン“10万年後の君へ”では中納が扇情的なラップを披露しているし、随所でコーラスをレイヤー状に織り重ねているのも新鮮だ。また、中納が数曲でシンセ・ベースを弾いているのだが、これがキャッチーなフレーズの連続で、絶妙 な異化作用をもたらしている。

森:なるべく、普段よく聴いているものとはまた違う音楽世界を作りたいなぁとは思ってました。と同時に普段メインにしている楽器以外のドラムやベースできっかけを作ったり、ドラムの菅ちゃん(菅沼雄太)とのセッションでボトムを組んだり、作っている方も何処に向かっていくか分からない、みたいな不思議で新鮮な曲作りができましたね。3.11の震災以降、二人でアコースティックライブをやる機会も多くて、なるべく少ない人数で知恵を出し合いたいなと思っていたんですよ。

アコースティック・ライブの延長線上にある、音数を絞ったシンプルなアレンジは、余計な圧迫感がなく、すっと耳に馴染む。とはいえ、森雅樹のギターは相変わらずエッジが立っているし、「ただ優しいだけじゃないアルバム」と彼が 言うのも納得できる。

中納:私がピアノ弾き語りで曲を作ると極端に甘い感じになるんですけど、森君のロック魂全開のギターがそこに入ると、それが中和されるのが面白くて。 アルバムを8枚出してきて、もはや無理に互いの接点を見つけようとしなくても、ふたりの持ち味が自然に混じりあうようになっているんです。その意味では、ビートルズにおけるジョン・レノンとポール・マッカートニーとか、はっぴいえんどにおける細野晴臣さんと大瀧詠一さんとか、ああいう関係が理想で。今回、 私がシンセ・ベースを弾いてみたり多少でしゃばってみたけど、森君のガレージっぽいギターが入ることで、最終的にはエゴ・ラッピン節になっている。作風は 変わっても、その<エゴらしさ>は絶対に揺るがないと思いますね。


■ALBUM……『steal a person's heart』 4/10on sale!

SONG LIST

01.水中の光
02.FUTURE
03.AQビート
04.10万年後の君へ
05.on You
06.ウィスキーとラムネ
07.女根の月
08.ちりと灰
09.Fall
10.blue bird
11.fine bitter

■PROFILE…EGO-WRAPPIN’(エゴラッピン)

1996年 大阪で結成。メンバーは中納良恵(Vo.&作詞作曲)と森雅樹(Gt.&作曲)。
2000年に発表された『色彩のブルース』が異例のロングヒットとなり、 その名を全国区で知られるようになる。 以後作品ごとに魅せられる斬新な音楽性において、 日本の音楽シーンにおいて常に注目を集めている希なアーティスト。



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記事内容:TOWER+ 2013/4/10号より掲載

カテゴリ : COVER ARTIST

掲載: 2013年04月10日 00:00

ソース: 2013/4/10

TEXT:土佐有明