こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

映画『シュガーマン 奇跡に愛された男』──interview ロドリゲス 〈伝説〉の男の驚くべき生きざま

ロドリゲスというミュージシャンを知る人は、日本には殆どいないだろう。1942年7月、ミシガン州デトロイト生まれ。今年71歳になる彼の名前は、実はアメリカでも、つい最近までほぼ無名に等しかった。その状況は、昨年のサンダンス映画祭のオープニングを飾ったドキュメンタリー映画、『シュガーマン 奇跡に愛された男』によって、一変した。

1960年代終わり、デトロイトの片隅で歌っていたロドリゲスは、大物プロデューサーの目にとまり、1970年代初めにアルバムを2枚発表する。「インナーシティー(スラム街)の詩人」とも称された彼の音楽性は高く評価され、業界筋はその成功を疑わなかった。しかし商業的には全くの失敗に終わり、レコード契約を解除されたロドリゲスは、アメリカの音楽シーンから完全に姿を消してしまう。

ところが彼の録音は、偶然にも遠く南アフリカに渡り、反アパルトヘイトに立ち上がる若者たちから圧倒的な支持を得て、アルバムは世代を超えたミリオン・セラーとなった。しかしロドリゲスは消息を絶ったままで、そのうちに南アフリカでは、彼は失意のうちに自殺したと信じられるようになったのだった。そんな〈伝説〉の男を探し出す過程をドキュメントしたのが、映画『シュガーマン』である。ここでネタをばらしたくはないのだが、映画では信じ難い事実が次々に明かされ、ロドリゲスという謙虚にして類い希なるミュージシャンの、驚くべき生きざまが伝わってくる。

「サンダンスで映画が賞を受賞して以来、本当に忙しくなった。ただあの映画はね、制作には何も関係していないんだ。追跡調査とか、誰を撮影するとかは、全て監督とプロデューサーが決めたことでね。自分は8分間、インタヴューに答えるシーンに出ただけなんだ。もちろん、映画は今までに何回も見たよ。実は3人の娘が出演していてね、見るたびに3人が出てくるシーンは、自分にとってこの映画のハイライトだって思うよ」

映画の公開以来、ロドリゲスの音楽も広く注目を集めるようになり、南アフリカや米国内はもちろんのこと、ヨーロッパなどでもツアーの機会が増えている。数十年の空白の後、突然名声が押し寄せてきた恰好だが、ロドリゲスはそんな環境の変化にも、特に動じることはなかったようだ。

「何故、音楽をやるかって? ミュージシャンが音楽をやる理由は、金とか名声とか色々あるかもしれないけれど、何よりも楽しいからだよ。これまで音楽を続けてこられたのは、音楽は直ぐに報いてくれるからだ。音楽は、世界と接触する感覚、タイミングの感覚、オーガナイズする感覚を教えてくれる」

19世紀末から自動車産業の街として興隆したデトロイトは、70年代には日本車の台頭により経済が深刻な打撃を受け、治安悪化が進んだ。映画『シュガーマン』に散りばめられたロドリゲスの音楽は、そんな時代の空気に鋭く反応して生まれた曲ばかりである。その静かでパワフルなメッセージは、先の見えない不況に喘ぐ今日にあっても、聴くもののハートにダイレクトに響いてくる。

「当時の南アフリカのことは、世界からボイコットされていること以外、ほとんど何も知らなかった。だけど当時のアメリカでは、若者が徴兵カードを焼き、警察による暴力、政府による抑圧も蔓延していた。自分が曲を作るときは、社会的リアリズムを描くことを心がけているのだけれども、南アフリカの人々は、曲の裏にあるそんなアメリカと南アフリカの共通点に、敏感に反応してくれたのだと思う」

16歳のときに家にあったギターを弾き始めて以来、ずっと音楽を追い続けているというロドリゲスだが、影響を受けたギタリストとして、チャーリー・クリスチャン、ジミー・リード、ボブ・ディランなどの名前を挙げている。

「それからディランのヴォーカルには、聴いたらそれと直ぐわかるシグネチャーがある。ロッド・スチュワート、ミック・ジャガー、みんなヴォーカル・シグネチャーを持っている。ヴォーカル・シグネチャーを生み出せたら、アーティストはアーティストとして、ある地点に到達したと言えると思う」

ロドリゲスの70年代のアルバムに耳を傾けると、当時の彼には、既にヴォーカル・シグネチャーが備わっていたことが伺える。これから先、彼の音楽がどこに向かうのか、大いに注目したい。

写真=ロドリゲス
Photo:Mayumi Nashida

シュガーマン_メイン

映画『シュガーマン 奇跡に愛された男』
監督:マリク・ベンジェルール
出演:ロドリゲス
配給:角川映画(2012年 スウェーデン・イギリス 87分)
◎2013年3/16(土)より角川シネマ有楽町ほかロードショー!
http://www.sugarman.jp
©Canfield Pictures / The Documentary Company 2012

大人の音楽映画祭~レジェンドたちの競宴~
あのレジェンドたちのドキュメンタリーを一挙公開!
音楽ファン垂涎の夢の映画祭が誕生!
2/9(土)~4/12(金)
会場:角川シネマ有楽町/梅田ガーデンシネマ
上映作品:『シュガーマン 奇跡に愛された男』『ディスコ・レボリューション』(日本発上陸!)『アントニオ・カルロス・ジョビン』(日本発上陸!)『ワン・プラス・ワン』『ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』『ボブ・マーリー/ルーツ。オブ・レジェンド』『クイーン ハンガリアン・ラプソディ:ライブ・イン・ブダペスト’86』『ポール・マッカートニー ライヴ・キス 2012』『ダイアナ・クラール ライヴ・イン・リオ』『ストーリー・オブ・ザ・ドゥービー・ブラザーズ』『ジェフ・ベック ライヴ・アット・イリディウム~レス・ポール・トリビュート』『サンタナ グレイテスト・ライヴ・アット・モントルー 2011』 『TOTO ライヴインアムステルダム』
http://www.sugarman.jp/festival/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年03月15日 18:38

ソース: intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)

interview&text:小林伸太郎