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インタビュー

illion 『UBU』

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2月25日に英国でデビュー作『UBU』を発表するillion。どうして英国なのか、どうして今なのか、そして実際のところ『UBU』で鳴っている音は、これまで私たちが知っている野田洋次郎とはどう違うのか。<東京からのトム・ヨークへの返答>と現地メディアが賛辞を送る『UBU』から響く、音楽に魅せられた男のピュアネスを聴く。



いつも自分はマイノリティだという自覚があるので、マジョリティになるのは落ち着かないです



曲それぞれの、最後の一音まで聴き逃したくない作品だ。デビュー作の『UBU』において、illionは全曲のソングライティングはもちろん、プロデュース、そして演奏までも――つまり文字通り<全て>――手掛けている。現在のところillionのインタビューを唯一取れている英音楽週刊紙『NME』の言葉を借りるなら、「ノダは、RADWIMPSとして相当数を売り上げた」わけで、一人で全てをやることが、自分の音楽的実力を証明することとイコールでないことは、言うまでもない。

 実際に『UBU』を聴くと、野田洋次郎が今回一人で全てをやった理由が、シンプルすぎるほどにストンと腑に落ちるのだから面白い。彼は、なにしろ作りたかったのだ、この音を。自分をとりまく森羅万象と自分の内なるビートとがゆるやかに融合した瞬間そのものの、不思議な感覚や喜びや驚きを、形にしていく興奮。その微妙で繊細な揺らぎまでもが、このアルバムには封じ込められている。詳しくは知らないが、率直(かつ時には無謀で斬新)な冒険心を持つミュージシャンがチャート上位に来るほどの人気を得ることが多々ある英国という場でのリリースが想定できたからこそ、これほど自由かつ率直な作品が作れたのかもしれない。2月25日に英国でデビューする新人(3月6日には日本、そして3月29日にはフランスとドイツでのリリースが決まっている)だからこそ、構造や構成の複雑さを凌駕するほどのこのフレッシュさは強みだし、聴いていて素直にワクワクする。この新鮮さは、端正でチャーミングな透明感と、それとはうらはらの不穏なダークさが『UBU』の中で共存しているからこそ生まれるものであろう。同時に、彼がこの作品に向けた意識も伝わることで、さらに増幅していく。

「まずせっかく音楽を作っているなら、国外でやってみたかったというのがあります。そしてそれは20代のうちにやりたかった。今の日本に向けて」NMEの取材で、野田はillionをスタートした動機をそう語っている。(以下、発言は全てNMEより)

「バンドは大好きですし。海外で活動することは僕の夢であり、ゴールだけど、でもそれはバンドとしての夢ではないんだ」

 なるほど、その言葉を脳裏に置きながら曲ごとに表情を変える『UBU』を聴いていると、バンドの音ではなく一人で作った作品だからこそ可能になったアイデアの痕跡が、いくつも見え隠れする。たとえばピアノとストリングスと声が、次第に高まっていく冒頭曲の"BRAIN DRAIN"。サビの高揚感のみならず、ピアノのタッチの変化だとか、後半でスネアをさりげなく炸裂させるなど、極めて微細な、しかし決定的に効果的なアイデアで曲全体が生命感を得ていくさまが見事だ。他にも、うねるメロディと日本語詞の切ない響きが胸をよじる切なさを生む“MAHOROBA”。ビーチ・ボーイズが雨の多いエリアで生活したらこんなサイケ曲を書いたかも、と思える壮大なウォール・オブ・ボイスの“GASSHOW”。ブレイクビーツをストリングスと掛け合わせ、IDM風に仕上げた“BEEHIVE”。ワルツのリズムで爽やかに揺らいでみせる“DANCE”。そして、ノエル・ギャラガーがギター片手に自宅キッチンで唄っているような(縦笛が可愛い!)“ESPECIALLY”。全14曲(プラス、日本盤のみボーナス・トラックが1曲収録される)それぞれが独自の表情だが、野田の声でゆるやかに繋がっていく。彼の声は、ニュー・オーダーのバーナード・サムナーからアークティック・モンキーズのアレックス・ターナーに至るまで、<少年性を失わぬ声>に敏感に反応する英国の音楽好きにも、間違いなく響くだろう。

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「バンドを始めてからずっと、どこか自分たちのホームグラウンドでない環境で演奏するのが好きでした。小さい頃アメリカに住んだ経験があって、その頃は自分はマイノリティだという自覚がありました。いつも自分はマイノリティだという自覚があるので、マジョリティになるのは落ち着かないです」

英国デビューは、こんな話からも腑に落ちる。ちなみに前述のNMEは<トム・ヨークへの東京からの返答>だとillionのことを位置づけている。もちろんそれが最高級の讃辞であることは言うまでもない。が、40代のトム・ヨークには今やできぬ音や姿勢が『UBU』から聴こえることも、書き添えておこう。この美しき透明感は、かけがえのないものだ

■ALBUM……『UBU』 3/6 on sale!


SONG LIST

 

01.BRAIN DRAIN
02.AIWAGUMA
03.PLANETARIAN
04.MAHOROBA
05.BEEHIVE
06.DANCE
07.γ
08.FINGER PRINT
09.LYNCH
10.UN&DO
11.GASSHOW
12.INEMURI
13.ESPECIALLY
14.BIRDIE
15.HIRUNO HOSHI ※bonus track
(M-7 は” ガンマ” のγです)
(M-15 日本盤のみのbonus track)

 



■PROFILE…illion(イリオン)

RADWIMPSの野田洋次郎(Vo&Gt.)によるソロプロジェクト。イギリスを拠点に活動を開始し、1stアルバム『UBU』を2月25日にイギリスで発表。ボーナストラックを1曲追加した日本盤を3月6日に国内でリリースする。同年5月に東京・味の素スタジアムで行われる「TOKYO ROCKS 2013」に出演。



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記事内容:TOWER+ 2013/2/10号より掲載

カテゴリ : COVER ARTIST

掲載: 2013年02月10日 00:00

ソース: 2013/2/10

TEXT:妹沢奈美