妹尾美里
愛猫HANAがくれた、美しいピアノの音楽
イマジネーションに満ちた音楽、美しく響くピアノのトーン、そして美貌のピア二スト。本作はその三要素のどれかが欠けてしまっても成り立たない、三位一体型の究極の音世界。
ピア二スト妹尾美里の3年ぶりのサード・アルバム『HANA ~ chatte tricolore~』。
「元々クラシックをやっていましたが、ジャズをやるとなった時、最初に好きになったのがミシェル・ペトルチアーニ。音がすごく心に響いてくるところに惹かれたんですね」
ぺトルチアーニの持つメロディ感覚や響きの美しさは妹尾美里のピアノはもちろん楽曲にも少なからず影響を与えていることは伺える。
「今回3年ぶりのアルバムですが、自分が演奏する曲はすべてオリジナルですので、これらの曲が固まってくるまでにライヴでやってみて試行錯誤したり、といったことを含め、必要な時間だったと思います。タイトル曲にしている《HANA》というのは飼っていた愛猫のことを書いた曲です。この曲をアルバム・コンセプトの中心にしているので、猫にちなんだタイトルの曲が他にもあります」
妹尾美里の曲はいわゆるジャズの曲の構成(テーマ→ソロ→テーマ)ではないし、メロディも特にジャズ的なものを意識したものではなく、彼女自身の内面から出てくるものを音にしているのが特徴。女性的なファンタジックなメロディ・ラインであったり、どこか映像が結びつきそうな、美しい世界を持った楽曲が並ぶ。そのタイトルも創作系のスウィーツ菓子の名前にも通じるような、メルヘン風な印象さえするもの。今回、メンバーにはベースの西嶋徹、ドラムス&パーカッションの石川智を中心に、ゲストにチェロの柏木広樹、ギターの馬場孝喜を迎えており、これまでのアルバムにないチャレンジも聴かせている。
「曲の構成に関しては基本的に決まったメロディから始まりますが、その後即興演奏に入って、というスタンダード曲を演奏する方法とは違っています。即興の部分はあくまでも曲の一部で、どの曲も頭から終わりまでその曲のイメージが最終的にきれいにまとまっているかというところを重視しています。また作る曲は自分のピアノが鳴っているイメージがいつも強いのですが、今回はチェロの音がどうしても欲しかったり、ギターが加わった曲もあり、そういう意味ではサウンドに広がりが出た部分が多いです」
リズムの部分も特にジャズで多用するスイング系のビートの曲は無く、聴き手がジャズはこうだと思って聴こうとする先入観は彼女の音楽の前ではあまり必要がなく、より自由度の高い音楽性の中で作られているのがわかる。
「編成の上ではピアノ・トリオではありますが、多くの人にジャズ云々ということは考えず聴いていただけたら、とも思いますね。自分でもジャズをやっている、とそれほど意識しているわけではないというのもあり、今回のアルバムでは4ビートの曲は1曲もありませんし、ピアノがメインになっている音楽ですので、ジャンルに関係なくピアノを弾いていらっしゃる方にも広く聴いていただきたいという風にも思っています」
ピア二スト、コンポーザーとして、彼女自身はどちらに重きを置いているのだろうか。
「曲を作るにあたっては楽曲が自分と離れて独立しているわけではなく、また誰かに弾いてもらおうと思って作るわけでもなく、作ったものを自分で弾くということが前提でその楽曲がある、という感じです。それは自分で弾くのなら、自分の曲での方が何かを表現できると思っていることもありますね。ですので、ピア二ストであることとコンポーザーであることは切り離しにくいところはあります。作曲は、弾きながら作ることがほとんどで、何回も何回も弾きこんでいくと最後に残っていく形にだんだんなってきて、それで完成の向かう、という感じです」
今回のレコーディングでもそうだったようだが、演奏しているとそのメンバーでの最高の瞬間がある、とのこと。
「編成によって、というより、それは多分2人であっても4人であっても音楽に入って行けている時の感覚はいっしょですね。無の状態というか、意識的にからんだわけではなく、いい意味で自然にそうなって行った時というか。そういう瞬間がレコーディングの時も何回かはありました。みんなが同じ方向にむかってはいるけれど、意図的ではなく、音楽で会話しながら、自然にそうなっていったという」
作曲、アレンジ、そして演奏まで自身の音楽に向き合う姿勢は明確な方向性を持ち、それをアルバムを追うごとに具現化させている。その彼女の今後の展望はどんなところにあるのだろうか。
「アルバム作りという部分でいうと、いつかソロ・ピアノ作を作りたいというのはありますね。オリジナル曲はライヴ活動でやっているだけでは多くの人に伝えきれないところがあるので、生み出した曲をひとつの形としてアルバムに残していくということは必要だと思っていますから」