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インタビュー

flumpool 『experience』



前作『Fantasista of Life Stripe』から約2年。バンドが経験したさまざまなエピソードを血肉化して紡ぎ上げた新作『experience』は、バンドの新たなサムシングを感じずにはいられないアルバムなのだ!



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自分たち各々の血が通ったアルバム

flumpool待望のニュー・アルバム『experience』がリリースされる。約2年ぶりとなる本作は、〈経験〉というストレートなタイトルからもわかるように、彼らの成長を余すことなく詰め込んだ大作と言っていい。まず、作曲を手掛ける阪井一生(ギター)は、このアルバムに至るまでの道のりをこう語る。

「自分たちで納得できるまで話し合って、とことん突き詰めていったアルバムですね。出来上がった曲を並べてみて、やっぱりこの2年があったからこそ出来たっていうのは特に感じるし、この2年間の経験があったからこそ、完成したアルバムだと思います」。

この2年間というタームを考えたときに、やはり昨年の東日本大震災は少なからずflumpoolにも影響を及ぼしたようだ。もちろん、この『experience』に関しても同様である。

「もともとは去年の末に出そうって話もあったんです。でも、震災があって、日本の情勢や景色が変わり、僕らバンドマンが考えることも変わっていったんで。それが直接の理由かはわからないんですけど、本当に濃いアルバムになりました。自分たち各々の血が通ったアルバムになったと思うんです。そして自分たちの意志が強くなったことで、バンド力が上がったと思うんですよね」(小倉誠司、ドラムス)。

バンド力の向上──それは7月にリリースされたシングル“Because... I am”と、その後に行われた全国ホール・ツアーによって、より顕在化した。

「このアルバムの音は地に足が着いているし、フレーズとサウンドがライヴと切り離されてない感じがしますね。曲とライヴが結び付いている。4人が軸を作っている感じがバンドっぽいなと、改めて聴いて思いました。それは“Because... I am”のツアーで、ひとライヴひとライヴを4人で作っていけたっていうのが大きくて。それを全部合わせたときに、すごくバランスの取れたアルバムになったんだと思いますね」(尼川元気、ベース)。



あたりまえのことがあたりまえじゃない

全14曲を収録した『experience』。心に染み入るバラード、疾走するロック・チューン、洒落の効いたポップ・ナンバーなど、とにかくヴァラエティーに富んだ楽曲が出揃ったが、何よりも〈この4人だからこそflumpool〉という強い意志に貫かれている。それは“Because... I am”により〈個〉の揺るぎなさを獲得したflumpoolが、この2年で辿り着いた新たな地平でもあるのだ。だからこそ、彼らはこのアルバムに明確なコンセプトを設定しなかった。山村隆太(ヴォーカル)はこう語る。

「コンセプトを掲げずにやろうと思ったのは、〈この2年間〉というものが伝えたいことだったし、それだけですべてが網羅されると思ったんですね。例えばライヴにしても、目の前にいる人が明日もいるとは限らない。あたりまえのことがあたりまえじゃないってことを、僕らはこの2年間で知ったと思うんですけど、それでも伝えたいことっていうのは、それだけでコンセプトになるんじゃないかって。それほどこの2年間っていうものには特別な意味があると思うんで、そのまま『experience』というタイトルを付けても、歴としたアルバムになるんだと確信したんですね」



しなやかな強さ

アルバム各曲の話に入ろう。まず特筆したい楽曲は、flumpool史上屈指といってもいい一大バラード“Across the Times”である。ドラマティックなアレンジもさることながら、ミディアム・テンポで展開する力強いメロディーが、この曲の魅力を存分に引き出している。

「これは自分のなかで〈バラード・モード〉がきてるときにガーッと作った曲ですね。あと実はこれ、ピアノの打ち込みで作ったんです。やっぱりギターで作るのと違って、譜割りも変わってくる。そういう作り方にハマってた時期の曲ですね。でも、これはとっておこうと思ってた曲なんです。タイミングが来るまでは出さないでおこうと。で、アルバムのなかにバラードを入れるなら、これだ!と思って」(阪井)。

「サビのメロディーには強さを感じましたね。でもその強さっていうのは、すごく儚いものでもあるんです。消えそうだけど強い、そんなイメージでした。歌詞にもそれが出ていると思います。これはツアー中に書いたんですけど、毎日ライヴをやっていくなかで、どれだけ楽しい場が出来ても、最後はそれぞれの場所に戻っていく。そんなときに、いったい何を残せたんだろう?って思うことがあって。それは、自分たちについても同じです。こうやって上京して、東京に何かを残そうと思ってやっているけど、じゃあ、この街に何を残せているんだろうと。でも、後ろ向きではなかったんですよ。それでも前を向いて、いま吹いている風のなかで生きていくしかないと思ったし、歩こうと思った。そういうしなやかな強さっていうんですかね。波に揺られながら咲いてる花、そんな強さを感じたんで。この曲には、その無常観を乗せたいなと思いました」(山村)。



アンバランスのなかでも形になる

山村が作曲と作詞を同時に手掛けたというラスト・ナンバー“36℃”も、このアルバムにおけるハイライトのひとつだろう。同じく彼の独唱から始まるオープニング曲“どんな未来にも愛はある”と対になるような形で配置された“36℃”は、平熱だからこそ感じられる人間同士の強い絆、すなわち愛を歌った感動的な一曲。激情でもなく、冷静でもなく、あくまで人間の体温から感じられる等身大の愛──なんとも山村らしい歌だ。ちなみにインディー時代には作曲も行っていたのだが、メジャー・デビュー以降では初となる山村曲。長年連れ添う尼川いわく「あ、このメロディーラインね。ああ、山村ね、みたいな。懐かしい感じがしました」とのこと。ただし、最大の勝因は、この曲を山村隆太のソロではなく、確固たるflumpoolの曲として鳴らせたということ。山村にその理由を尋ねると、「そこはflumpoolっていうバンドがバランスを取って出来ているバンドじゃなくて、アンバランスのなかでも形になるっていうことでしょうね。そしてそれが、ひとつの美しい形に見える可能性があるっていうのは、すごく嬉しいですよ」という答えが返ってきた。そう、そもそもバンドなんていうものは、歪さの上に成り立っているものだ。そんな歪さを歪なままではなく、〈美しいもの〉として歌い上げるところに、flumpoolのロック・バンドとしての魅力があるし、ポップ・バンドとしての普遍性が存在する。だからこそ山村は自信を持って、『experience』をこう評価する。

「聴いてくれる人にとって、素通りできないアルバムになったと思います。このアルバムを聴いて何も感じない人はいないんじゃないかなって。良くも悪くも、生きることはこうなんだとか、そういう意味じゃなくてこうなんだとか、いろんな意見や反論は出てくると思います。でも絶対に無関心ではいられない、そんなアルバムになったと思います」。

個の強さをバンド自身が肉体化し、そして4人で新たな扉をこじ開けたニュー・アルバム『experience』──その物語は、聴く人それぞれの胸のなかで紡いでいくものでもあるのだろう。



▼2011年にリリースされたflumpoolのシングルを紹介。

左から、『どんな未来にも愛はある/Touch』“証”“Present”(すべてA-Sketch)

 

▼2012年にリリースされたflumpoolのシングルを紹介。

左から、“Because... I am”“Answer”(共にA-Sketch)

 

▼flumpoolのアルバムを紹介。

左から、2009年作『What's flumpool!?』、2011年作『Fantasia of Life Stripe』(共にA-Sketch)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年12月25日 14:30

更新: 2012年12月25日 14:30

ソース: bounce 350号(2012年11月25日発行)

インタヴュー・文/徳山弘基