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インタビュー

ジャンク フジヤマ “あの空の向こうがわへ”

 

無骨なミュージシャン魂と歌への情熱を元に、洗練されたシティー・ポップを編み上げる強力新人! 爽快なサウンドに乗って、気分は〈あの空の向こうがわへ〉……

 

〈ジャンク フジヤマ〉と名乗る男が、初のミニ・アルバム『A color』を発表したのは2009年のこと。まだ無名の新人が「ポケット・マネーでレコーディングして、自分でお店を回って」という〈どインディー〉な環境から世に放ったこのアルバムは、評判が評判を呼んでロングセールスを記録することになる。70年代末あたりの日本産シティー・ポップを彷彿とさせる洗練されたサウンドが、熱心なリスナーの耳を捕らえたのだ。まだ20代(!)のジャンクは、いかにしてこの成熟した音楽性に辿り着いたのか。

「とあるイヴェントへ行った時に、バンドがJB'sの“Pass The Peas”なんかを演奏していて〈これがグルーヴってやつか!〉と。こういうのをもっと聴きたいと思ったんです。それがきっかけになって、いろんなブラック・ミュージックや、それらに影響を受けたジェイムズ・テイラーとか細野晴臣さんを見つけていって」。

出発点は、さまざまな過去の音楽を発見し、採り入れていくリスナー気質。その一方で、無骨で熱いミュージシャン魂も持ち合わせているのがジャンクの際立った個性だ。

「僕みたいな音楽を聴いてる同世代って珍しくはない。でも、そうやって聴いてきたものを血肉にして、自分の表現に昇華してる人って少ないでしょう。僕はそこまで持って行きたいんです。あと、いまは歌がサウンドの一部ってアーティストが多いじゃないですか。僕の場合は歌が独立してるんです。パワフルに歌って、魂を込めないと」。

そのソウルフルな歌声に魅了されたひとりが、日本屈指のドラマーである村上“ポンタ”秀一だ。〈こんなに思いっきり歌うヤツ、いないでしょ〉と、彼は直接ジャンクに連絡を取り、ライヴ・サポートを買って出る。

「マイナーリーグの選手がいきなりメジャーリーガーと試合するようなもんですよ(笑)。でもポンタさんが声をかけてくれたことは大きいです。単純に、作品に力を込めれば、ちゃんと響くんだなと」。

村上の呼びかけによって、ギタリストの天野清継ら強力なサポート陣が集結。ジャンクはライヴを重ね、パフォーマンスに磨きをかけ、その成果を1枚のライヴ盤と2枚のオリジナル・アルバムに結実させる。

「最低でも月2回はライヴをやりたいし、そうやってステージで培ったものを作品に入れ込みたい。そのためにはライヴ盤を経る必要があったのかなと。スタジオ盤の『JUNKWAVE』にしても、メンバーみんなでいっしょに音を出して作ったんですよ。いまそんな録り方する人もあんまりいないと思うんですけど」。

そして今回、満を持してメジャー・デビュー・シングル“あの空の向こうがわへ”を発表した。昂揚感たっぷりのメロディーと軽快でファンキーなビート。ひたすらポジティヴに突き進むポップ・チューンだ。

「暗いところがまるでない(笑)。でも、経済が後ろ向きだったりする時代の閉塞感を背負い込んで作ってもつまらないじゃないですか。歌のなかくらい美しく、爽やかで良いじゃないかと。ポップスってそういうものだと思ってますから」。

カップリングにはシャッフル・ビートが心地良い“未来図”と、名バラード“曖昧な二人”のライヴ音源を収録。シティー・ポップのグルーヴィーな側面だけでなく、しっとりとしたスロウの魅力もジャンクは丁寧に継承している。

「歌手としての自分をいちばん表現できるのはバラードですから、大切に歌ってます。僕はやっぱり専門職として歌手をやってる意識が強いんですよね。サウンド・メイキングからってタイプじゃない」。

そう語られる通り、本作の楽曲もアレンジや作曲をバンド・メンバーが担っているものが多い。自身も楽曲制作を手掛ける立場でありながら、作家主義とは無縁であるのがおもしろいし、それゆえの抜けの良さもジャンク作品の魅力だと思う。

「良い曲だったら誰の曲でも歌うし、気心の知れたメンバーと作るのがいちばんいい。ドラムはドラマーが叩いて、ギターはギタリストが弾く。そうしないとライヴでできないじゃないですか(笑)。逆に言えば、ライヴでは盤をそのまま再現できるし、生の良さを聴かせる自信もあります。とにかく観に来てほしいですね」。

 

▼文中に登場したアーティストの作品を紹介。

左から、JB'sの72年作『Food For Thought』(Polydor)、ジェイムズ・テイラーの70年作『Sweet Baby James』(Warner Bros.)、細野晴臣の73年作『HOSONO HOUSE』(ベルウッド)

 

 

▼ジャンクフジヤマの作品を紹介。

左から、2010年のライヴ盤『JUNKTIME』、オリジナル曲とライヴ音源をまとめた2010年の企画盤『JUNKSPICE』、2011年作『JUNKWAVE』、ボーナス・トラックを追加し、リマスター版としてリイシューされた2009年のミニ・アルバム『A color+5』(すべてMil)

 

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年06月20日 18:01

更新: 2012年06月20日 18:01

ソース: bounce 345号(2012年6月25日発行)

インタヴュー・文/澤田大輔

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