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インタビュー

女王蜂 『孔雀』

 

女王蜂_A

 

間違いなく今年いちばんの〈台風の目〉と言われるバンドだろう。あるいはすでにイロモノのように見られているかもしれない。それでもあえて言おう、いまの日本でレディ・ガガに真っ向から対抗できるポップ・アイコンはこの女王蜂しかいない、と。そのココロは?——もちろん、オーディエンスやファンをエンターテインすることが何よりの喜びという、至極真っ当で素直な感情にのみ強く貫かれているバンドだから。それ以外の邪念はない……いや、それ以外にいったい何が必要? 女王蜂は堂々とそう言い切るバンドだ。

「私たちの手を離れたら、作品はもう好きなようにしてほしいの。みんなで楽しんでほしいし、私はそれ以上に必要なものなんてないもの(笑)」(アヴちゃん:以下同)。

ヴォーカリストのアヴちゃんは真っ直ぐにこちらを見てそう話す。神戸で結成されて2年。短期間のうちに話題を一気にさらったバンドのカリスマらしいオーラと、しかしそのオーラに屈しない人としての強さ、純朴さが交差する。その瞳は本当に美しい。

「もちろん昔はいろいろあったし鬱屈した生活をしていたの。着る服がメンズなのかレディースなのかわからなかったりもしたし、〈男なの?  女なの? トランスジェンダーなの?〉って訊かれて、そんな3つのなかから選んでもらっても困るし!って思ったこともある。実際、100人いたら100人のセクシャリティーがあるはずでしょ? 冗談じゃないわ、もうたくさん!……っていうエネルギーが女王蜂に向かわせたのかもしれないわ。私はただその熱意を残したいの、形にしてみんなを楽しませたいだけなの」。

影響を受けた作品や人物を問うても「いままで出会ったもの、人、全部」と答え、思想を訊ねても「体験したこと全部に影響されている」と答える。その答えには一切の迷いも澱みもない。音楽はもとより生きとし生けるすべての事象に対し、アヴちゃんは同感覚で接する。そこに区別は設けない。「だって、ひとつひとつを理解しようと思ったら一生かかるし、親だって最終的に全部は理解できないでしょ? でも私たちはそういうなかであらゆるものから影響を受けているのよね」と、シースルーのミニドレスにラメのタイツ、緑にカラーリングされたビーハイヴ・ヘアーにグリッター・メイクでキメたショウモデルさながらの出で立ちで語る横顔は、実に凛々しく理性的だ。

「芸術が好きなのは、最終的にすべて理解できないというのを飛び越えていけるから。いろんな解釈があっていろんな形に発展していけるでしょ。だから、私はたまたま音楽が好きで女王蜂を始めたけど、ステージ衣装もジャケットのアートワークも写真もすべて関わっているの。自分で衣装用の生地も買いに行くのよ。でも、そうやることがすごく楽しいし大事だと思えるの」。

レディ・ガガ、Perfume、ビヨンセ、叶姉妹——アヴちゃんの口から出てくる憧れの存在は共通してゴージャスな面々ばかりだ。アヴちゃんはそうした華やかなイメージを喚起させながらも、あくまで自分の資質にフィットした曲をわずか5分程度で作っていくという。だから、女王蜂の曲は昭和歌謡的なニュアンスもあれば、煌びやかなダンス・ミュージック・スタイルのものもあるなどサウンド面での共通点はそれほどない。ただ、これを聴いてくれるみんなが笑顔でひとつのものを共有できる夢のような桃源郷の世界に誘うこと。アヴちゃんが望むのはそれだけだ。

「お風呂に入っていても道を歩いてても曲はパッと出来るの。そういう意味では閃きで出来ているようなバンドと言えるわね。自分で自分をプロデュースするような冷静な感覚っていうのはないかも。本当にいいと思えるものをそのまますぐ作品にすることのほうが自分には合ってるし、実際、そういうもののほうが楽しめるの。それにほら、特にライヴ中はトランス状態に入っているから、自分たちのやってることなんてそんなコントロールなんてできないじゃない?」。

 

PROFILE/女王蜂

アヴちゃん(ヴォーカル)、やしちゃん(ベース)、ルリちゃん(ドラムス)、ギギちゃん(ギター)から成る4人組。2009年に神戸で結成し、地元を中心にライヴ活動を開始。2010年に通販/ライヴ会場限定で自主制作盤『姫様御乱心』『王族大逆鱗』をリリース。同年の〈フジロック〉では〈ROOKIE A GO-GO〉に出演したこともきっかけとなって全国的に注目を集める。2011年3月に初の全国流通盤となるファースト・アルバム『魔女狩り』を発表。今年の夏は〈RISING SUN〉などの大型フェスに出演するなか、9月公開の映画「モテキ」のメイン・テーマ曲に“デスコ”が抜擢されて話題に。9月7日にメジャー・デビュー作となるニュー・アルバム『孔雀』(女王レコード/ソニー)をリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年09月06日 21:58

更新: 2011年09月06日 21:59

ソース: bounce 335号 (2011年8月25日発行)

インタヴュー・文/岡村詩野