NICO Touches the Walls 『PASSENGER』

[ interview ]

まさかここまで、バンドの持つ未知のポテンシャルを解き放ったダイナミックなアルバムが出来上がるとは。正直、予想を遥かに超えていた。2010年のほとんどをライヴに費やすことでみずからのルーツを再確認したNICO Touches the Wallsは、あくまでポップでメロディアスなサウンドにこだわりつつも、持ち前の実験スピリットとマニアックな嗜好性を掛け合わせてNICOでしかあり得ない音世界を遂に作り上げた。2011年のいま、『PASSENGER』という愚直なほどにストレートでロマンティックなロック･アルバムが生まれたことは、日本のシーンにおける大きな希望だと声を大にして言いたい。

丸裸になっていく感覚

――遂に出来ましたね。NICOにしか鳴らせない音が鳴ってる、等身大の傑作が。聴きながらもう、〈そうそうそう、これでいいんだよ!〉って感じでしたよ。

古村大介（ギター）「いまのバンドのいい感じが、そのまま詰まったアルバムが出来ました。曲作りをずーっとやってて、今年に入ってからアルバムの曲を選んで。それぞれ〈これは譲れない〉というものがあって、それが結果的に残ったから、その感じがそのまま出たと思います」

坂倉心悟（ベース）「前の『オーロラ』を作ってる時は、〈ポピュラリティーをめざして〉という感覚があったんですけど。今回は去年のライヴの流れだったり、いまのバンドの状態を包み隠さずそのまま出すことで、結果的にポピュラリティーがあるものになったというか、みんなに受け止めてもらえるものになったと思うので。それがすごく嬉しいです」

対馬祥太郎（ドラムス）「〈これでいいんだよ〉って言ってもらえれば、それがすべてです（笑）。そう言わせたかったし、それをめざしたし、いいものが出来て本当に良かったです。しかも意外と、いままでのなかでいちばん幅広いんですよね、ジャンルが。いろいろトライして、やりたいものを詰め込んだ結果、より太い一本の流れになったような気がするんですよね、ジャンルは広がっても。こってりしてるのに、クドくないという」

――うまいこと言いました。イケてるラーメン屋みたいな（笑）。

対馬「これ、ずっと言ってるんですよ。俺らのなかで（笑）。そういうものが出来て良かったです」

光村龍哉（ヴォーカル／ギター）「これぞNICOだというアルバムになりましたね。去年のライヴを通して、目の前にいる人に〈シンプルに届ける〉という作業のなかで、いままで身に着けていた鎧を外していくというか、丸裸になっていく感覚があって。だからこそ出せた、自分の根底にあるものだったりとか――例えば90年代の独特のポップ感とか、そういうところも包み隠さず出せたし。歌詞の面でも、すごくパーソナルなものをめざして、より自分の感情に肉迫するようなテーマがたくさん見つかったし。すべてを心おきなく吐き出せて、めちゃくちゃスッキリしたっていう感じですね、いまは」

――ちょっと、確認していいですか。去年の〈ミチナキミチ〉ツアーの時にすでに演奏していた曲って、“サドンデスゲーム”と“Diver”と……。

光村「あとは“君だけ”“SURVIVE”“容疑者”です。“友情讃歌”はもっと前の曲で、それ以外は全部新しいやつです。〈ミチナキミチ〉の時にすでに8曲ぐらい新曲があって、それが全部入るだろうと思わせておきながら、入れないという（笑）。“ロデオ”なんて、アルバムの1曲目ですけど、今年に入ってから出来た曲ですからね。周りのスタッフが〈この曲なんだっけ?〉って言ったという（笑）」

対馬「〈え、入れるのこれ?〉って言われたもんね」

光村「で、〈入れますよ〉って。しかも絶対1曲目ですよって。曲が出来た時に岡野（ハジメ）さんにこっそり聴かせて、〈岡野さん、こういう曲、絶対好きですよね?〉って訊いたら、〈たまりませんこれは〉ということで、プロデュースをお願いしたりとか。そういう、生々しい出来方をしてますね」