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インタビュー

MY CHEMICAL ROMANCE 『Danger Days: The True Lives Of The Fabulous Killjoys』

 

白と黒だけじゃない、色とりどりのサウンドと共にモダン・ロックの最前線へ返り咲いた彼ら。2019年から来たギャング団? 害虫駆除業者の親玉? 警察よりも怖いドラキュロイド? 今度のパレードも何だか凄そう!

 

 

これは発表すべきじゃない

〈ある男の死にまつわる物語〉と一言で表現されることも多い2006年作『The Black Parade』。しかし、「人は誰でもいつかは死ぬ。死んだ後、それまでの人生を辿るような旅に出るんじゃないかと思うんだ。ならばその旅が楽しいものになるよう、いまを大切にしなければならない」とジェラルド・ウェイ(ヴォーカル)も語っている通り、そこにはマイ・ケミカル・ロマンスなりの死生観が込められていた。

全世界で300万枚のセールスを叩き出したこのアルバムは、当人たちも戸惑うほどのスピードでキッズを洗脳。マイケミはあたかも教祖のように崇められるようになった。そんな熱狂するオーディエンスの期待に応えるべく架空のバンド、ブラック・パレードを演じ切った約2年間のツアー生活がいかに壮絶なものであり、メンバーを疲弊させたかは、ライヴ作品『The Black Parade Is Dead!』を通じて窺い知ることができる。

その後、ジェラルドはコミック「The Umbrella Academy」の作者として活動。私生活でもメンバー各々が結婚や子供の誕生という大きな経験を積み、充実した日々を過ごしていたようだ。そんなこともあって、レコーディングはさぞかし和やかなムードのなか順調に進んでいるかと思いきや、一向に完成の知らせが届かない。昨年の〈サマソニ〉では、『The Black Parade』の反動とも受け取れるストレートなロックンロール・ナンバーを新曲として披露し、制作中のアルバムが剥き出しのバンドの姿を映し出した一枚になることを匂わせていたものの、結局そのアイデアは頓挫してしまった。

「周りの人は良いと言ってくれた。でも自分たちで聴き直してみたら100%満足できるものじゃなかったんだ。そう感じてしまった以上、その作品は出すべきじゃない」(フランク・アイエロ、ギター)。

さらに、追い打ちをかけるようにドラマーのボブ・ブライヤーが今年2月に脱退。気付けば前作から4年の月日が経っていた。そうした紆余曲折を経て届けられた新作のタイトルは、『Danger Days: The True Lives Of The Fabulous Killjoys』。クレジットを眺めてみると、当初予定されていたブレンダン・オブライエンから、いつの間にか前作を手掛けたロブ・キャヴァロにプロデューサーが交代している。

 

マントラを描くように……

「新作は砂漠を舞台にしたいと考えていたんだ。で、リンジー(ジェラルドの妻でマインドレス・セルフ・インダルジェンスのベーシスト)と砂漠で2日間ほど過ごしたんだけど、その時に公現日みたいなことが起きたんだよ。俺の頭のなかで歌が聴こえたのさ。コーラスみたいな〈ナナナ~〉という声がね。こんな馬鹿げたことってないだろう!? でも、そこからレーザー銃や強力なエンジンを搭載したスポーツカー、マスクなんかが次々と浮かんだんだ。その後、俺たちは友人としてロブと会い、自分たちが陥っている状況について話したのさ」(ジェラルド)。

メンバーから〈5人目のマイケミ〉と慕われているロブは、バンドの現状にショックを受け、彼らを激励し、ゼロからアルバムを作り直すように促したらしい。結果として、その助言が吉と出たようだ。

今作にはこれまでのマイケミにはなかったタイプの楽曲——例えばドラムのループとシンセを多用したディスコ・チューンや、ヒンドゥーのホーリー祭に興味を持ったジェラルドがYouTubeで観たストリート・ドラマーの演奏を再現したという曲、父親目線で書かれたナンバーなど——がひしめき、非常に多彩な仕上がりとなっている。また、“Party Poison”や“Vampire Money”、そして「俺たちにとっては、次のレヴェルに進めた大事な曲」とジェラルドも太鼓判を押す先行シングル“Na Na Na(Na Na Na Na Na Na Na Na Na)”といった王道のロック曲を通じて、当初めざしていたであろうサウンドを表現することにも成功。

そんな〈Danger Days〉はジブリ作品や映画「ブレードランナー」からインスパイアされたらしく、ここでもメンバーはファビュラス・キルジョイズなるギャング団を演じ、さらにドラキュロイドなんて敵まで登場。設定は2019年のカリフォルニアだ。これらの情報から、『The Black Parade』以上に手の込んだ〈ロック・オペラ〉なのかとも考えたが、答えは〈ノー〉。ジェラルドも「コンセプト・アルバムだとは思わないようにね」と念を押す。

「ひと続きのストーリーでもなければ、共通した何かを語っていくようなものでもなく、マントラを描くようにさまざまな意識の状態を追う感じかな」(マイキー・ウェイ、ベース)。

なお、収録曲にはデス・ディファイング(=死をものともしない)というドクターも現れる。〈不死〉や〈ロックンロール〉の象徴として名付けたというその名が、いまのマイケミを的確に表しているように思えてならないのだが、どうだろう。というのも、〈現行ロックの頂点〉と讃えられた前作からのプレッシャーに一度は押し潰されそうになりつつも、彼らは素晴らしいアルバムを完成させたのだから。

「僕はこのアルバムを愛している。こんなにもカラフルで、最高で、大胆不敵かつ顔面直撃なアルバムが作れたことを心から誇りに思うよ」(ジェラルド)。

余談だが、去る10月23日に彼らのロンドン公演を観る機会に恵まれた。オープニング・ナンバー“Na Na Na(Na Na Na Na Na Na Na Na Na)”が流れると、会場の温度は一気に上昇。この曲の持つパワーを肌で感じられた瞬間だった。ちなみに、ダークなトーンで統一された前ツアーとは対照的に、レーザーライトを駆使したカラフルな演出は、新作の世界観を目でも堪能させるものだ。このアルバムを十分に楽しんだ後、改めて日本でもこのショウを体験したいと心から思う。

 

▼関連作を紹介。

マインドレス・セルフ・インダルジェンスの2008年作『If』(The End)

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掲載: 2010年11月24日 17:59

更新: 2010年11月29日 20:34

ソース: bounce 327号 (2010年11月25日発行)

構成・文/宮原亜矢