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インタビュー

AK 『SAY THAT YOU LOVE ME』

 

一念発起してNYに拠点を移し、マイペースながら次々とビッグネームとの仕事を重ねてきた彼女。この成功に自信をつけ、ふたたび次のステップへ——

 

86年にデビューし、クロスオーヴァー・ジャズやソウルのエッセンスを滲ませた作品を世に送り出し、いわゆるJ-Popの世界で洒脱な才能を発揮していたシンガー・ソングライター、柿原朱美。98年、彼女はその名を〈AK〉と改め、新たなスタートを切った。念願だったというセルフ・プロデュースのもと、R&Bへと大胆にシフト・チェンジ。それまで以上に洗練されたサウンドを紡ぎつつ、その目は海外へ向けられていた。

「いつか自分の曲を海外で出したいと思ってたんですけど、決定的だったのは『LOVE』で組んだ世界的なエンジニアのケヴィン・デイヴィスに〈君の曲は絶対アメリカで出すべきだ〉って言ってもらえたことですね。それでレコード会社にダメもとで〈NYに住みたいんですけど〉ってお願いしたら〈行ってこい!〉と(笑)」。

こうして2001年に渡米したAKの海外デビューは驚くほど早く、しかも最良の形で実現することになる。NYのダンス・ミュージック界の最重要人物であるフランソワKとエリック・カッパーが彼女の“Say That You Love Me”をリミックス。同曲は世界中のダンス・チャートで1位を獲得し、ハウス・アンセムの殿堂入りを果たした。

「ダンス・フィールドの音楽もずっと聴いてたし、ハウスのリミックスは以前からやってもらいたかったんです。それでフランソワに連絡を取って聴いてもらったら、〈もちろんやりたい〉って。向こうに住みはじめてからリリースまで、6か月かからないくらいでしたね」。

まさにアメリカン・ドリームを体現する成功を掴んだ彼女は、フランソワと並ぶハウス・レジェンドであり、現在の旦那さまである(!)ダニー・クリヴィットらと交流を深めながらNYのハウス・コミュニティーで活動を続け、2007年にはジェフテ・ギオムとのコラボで“Shining Your Way”をリリース。これを機にさまざまなプロデューサーとのコラボ曲を発表することになるが、特にSTUDIO APARTMENTとの“Beautiful Sunrise”は、日本のクラブ・シーンにもハウス・シンガーとしてのAKの存在を広く知らしめた重要曲だろう。

「ダニーとツアーをやった時に“Say That You Love Me”も“Beautiful Sunrise”もオーディエンスの人たちが歌詞をしっかり覚えて大合唱してくれたんですね。そこで国内でもハウスが盛り上がってることを身を持って知ったし、自分の曲が受け入れられてると実感できました」。

このたびリリースされた『SAY THAT YOU LOVE ME』は、ダンス・ミュージックの世界に身を投じてからの彼女の軌跡を、コラボ・ナンバーも含めて総括した一枚だ。これをまとめて聴いた時に浮かび上がってくるのは、やはり彼女の歌声が持つマジカルな魅力。ゴスペル〜ソウルの流れを汲むシンガーが主流のNYハウス・シーンにあって、アンニュイなAKのヴォーカルは特異であり、それゆえの輝きを放っている。

「ヴォーカルには小さい頃からコンプレックスを持ってるんですけど、一方でパワフルなヴォーカルよりもボサノヴァみたいなウィスパー・ヴォイスのものがすごく好きなんです。無理せず声を活かしたものを作ればいいのかなって」。

アルバムに収められた2曲の新曲は、自身でトラックも手掛けた初のハウス・チューンなのだが、かつての作品の世界観を継承するアダルト・オリエンテッドな質感を備えた楽曲となっていて素晴らしい。次回作については「早いなあ(笑)」とかわされてしまったが、音作りも含めて彼女がすべてを担ったオリジナル・アルバムをぜひ期待したいところだ。

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年09月21日 18:45

更新: 2010年09月21日 18:46

ソース: bounce 324号 (2010年8月25日発行)

インタヴュー・文/澤田大輔