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インタビュー

DEV LARGE THE EYEINHITAE

黒船の衝撃ふたたび……筋金入りのブレイクビーツを携えて宇宙から帰ってきたDEV LARGEの才華が、ついに、ついに待望のソロ・アルバムに結実したぞ!! 


 日本のヒップホップ・シーンにおけるキーパーソン、DEV LARGE。このヴェテランがついに完成させたファースト・ソロ・アルバム『KUROFUNE 9000(BLACK SPACESHIP)』は、自身が「世間に〈DEV LARGE=ラッパー〉っていうイメージが定着してるから、その反動として言葉がなくても成立するものを作ったんだよ。もともとプロデューサーになりたくてこのゲームに参加したんだし、初期衝動に忠実にね」と話すとおり、完全なインスト・アルバムである。そんな本作には、ヒップホップを根幹にしつつも、多様なジャンルや音楽的要素をクロスオーヴァー、いや、デヴァステイト(DEV-ASTATE=粉々に壊滅)したサウンドが詰め込まれている。「究極のコラージュ遊び」だというサンプリングで彼が作った楽曲群は、未来的かつ宇宙的な風合いを基調に、ムーディーで滑らかな耳触りのもの、メロディアスで甘美な曲調のもの、ムチムチと艶めかしく官能的な風情のもの、変則的で錆びついたビートがいびつな音像を生むもの……など実に多色。その多彩さによって、リスナーへの間口がより広がっている。が、「聴き手には何の見返りも求めていない」との言葉どおり、この作品にポップな色調は皆無。聴き手に色目は一切使っていない。ただ一色、真っ黒である。イルな漆黒のグルーヴがリミッターを超えてボタボタとこぼれ落ちてくる。

  この黒光りする音塊が持っているのは、もちろんオリジナリティー、そして少し意外なことに〈人間味〉である。本作を聴いた所感として、機械的、メタリック、シャープ、洗練などという言葉は浮かばない。何ともエモーショナルなのだ。言葉という直接的な訴求力を持たないインスト・アルバムなのに、である。どうやら、その理由は彼特有の制作理念にあるようだ。

「単調なワン・ループじゃなくて、曲のなかで展開を作った。音から映像がイメージできるようにね。それと、哲学的な何か、魂とか愛情、感情と言えるかもしんないけど、そういう本当に大切なものを凝縮して詰め込んだんだよ」。

 そういった彼の情感やオリジナリティーは、いい意味で洗練されていない肉感的なラギッド感の裏にこそ潜んでいると思えてならない。

 それはそうと、書き忘れてはいけないことがある。それは、インスト・アルバムを作ったとはいえ、今年のDEV LARGEにはまだ別の顔としてのプロジェクトがあるということだ。

「今年はオレにとって勝負の年だね。延期されてたソロのラップ・アルバムも3度目の正直で出るだろうし、他にもILLMATIC BUDDHA MC'Sとかいろいろとリリースする予定だから。奇跡は9月、11月に起こるはず」。

 一方で、〈5年後は何をしていると思う?〉という問いには「喫茶店をやってるだろうね。カレーライスとオムライスとメロンソーダを出す店」と冗談めかしながら答えた。

  時に〈異能〉や〈鬼才〉と呼ばれるDEV LARGE。確かにその音楽性と同じく、彼は哲学的かつスピリチュアルな言動をする人であった。が、また彼は柔和な雰囲気のある、時に好好爺のような笑顔をする人でもあった。それに「年輪を重ねるにつれて賢くなった」という彼の口からは、印象深いパンチラインがワンサカと躍り出した。誌面の制限のため、彼の発言の大半を殺さなければならないのが残念だが、例えばそれは、「銀河を見て思う。否定じゃなくて寛容なんだ。暗い星が暗いってことは明るい星と比べてみて初めてわかるんだよ」などである。DEV LARGEの思考は、すでに常人には量り知れない銀河の彼方にあるのかもしれない。何といっても、彼は最近の自分をEYEINHITAE(第三の眼とアインシュタインをかけてアインヒタイと読ませている)になぞらえているのだから。でも、そんな彼が作り出す音の宇宙のなかは、何だか妙に温かくて心地良い。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年03月31日 13:00

更新: 2005年03月31日 17:34

ソース: 『bounce』 263号(2005/3/25)

文/河野 貴仁

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