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インタビュー

東京事変


 椎名林檎が、新バンド=東京事変としての活動を宣言したのは、今年の7月。

「この名義でやるっていうのは、スタッフからはわりと冗談っぽく扱われていたような感もあって。反対する声もあったんだけど、このバンドだからこその音、このメンバーだから湧いて出る曲を提示して、ようやくわかってもらった感じです」(椎名林檎)。

 とびきり個性的なソロ・アーティストである椎名林檎の思いきった決断に対して、スタッフならずとも〈冗談〉もしくは〈気まぐれ?〉と勘ぐってしまうのも仕方がなかったところだろう。しかし、どうだ! デビュー・シングル“群青日和”におけるハツラツとしたテンション、続くセカンド・シングル“遭難”、その〈正調・林檎節〉ともいえるメロウネスのなかに熱くたぎるバンドのパッションたるや! その先に控えるアルバムのリリースが待ち遠しくなる……って、いよいよ届きました、東京事変のファースト・アルバム!

「最初にデモをもらったとき、いちばん最初に感じたのが〈音楽は楽しい〉っていうこと。ストレートな楽しさがあるな、と」(晝海幹音)。

「楽しいのが聴きたいよね、って感じで。最近、アルバム評で〈おもちゃ箱をひっくり返したような……〉と書かれるような作品が少ない気がして、そう言ってもらえるようなアルバムを作りたいなと思って」(椎名)。

 そう語るとおり、アルバム『教育』は、ひっくり返して散らばったおもちゃの山と無邪気に戯れるような、退屈知らずのヴァラエティーに富んでいる。かのシングル“りんごのうた”をファンキーに組み直した“林檎の唄”に始まり、曲調がボサノヴァからロックへと華麗に変化していく“入水願い”、ささくれ立ったロックンロール“クロール”、クラシカルなピアノ・インスト“現実に於て”、その発展形となるヴォーカル曲“現実を嗤う”、ブラジリアン風味の4ビート“サービス”、ブルースとシャンソンが交配したロンサムなナンバー“駅前”、林檎いわく「一生書けないようなポップな曲」という“御祭騒ぎ”、マーチング・リズムの“母国情緒”、しめやかなラスト“夢のあと”。“群青日和”ではメンバーのH是都Mが曲を手掛けていたが、アルバム曲の詞曲は、ほとんど椎名林檎によるもの。もちろん、編曲は東京事変。

「私はかつてメンバー全員のファンで、そういう4人を集めちゃったから……アイドル好きの男の人が女の子を4人集めて、いろんな格好してるところが見たいっていう心理と多分同じで、いろんなプレイを聴きたくて。だから、アルバムで書いた曲はメンバーへのラヴレター的な曲が多いかも知れないですね。みんなが演奏したら、それぞれがおもしろいプレイをしてくれそうっていう」(椎名)。

 そんなこんなで、椎名林檎のソロ作品以上に、多岐に渡ったクロスオーヴァーぶりを見せつける『教育』。そのレコーディング中、メンバーのあいだでは、こんな共有ワードが飛び交っていたようだ。

「〈圧倒的〉とか……〈わからない感〉とか。なんとも言い難いっていう意味で、聴いたことない感じっていう。わからないからこれでいいじゃん、うまいこと言い当てられないサウンドになったらそれが良し!と。テイク選びで揉めた曲もあるけど、〈ま、いいか〉って感じで、すぐに解決して。亀田(誠治)師匠のベースなんて、半音ずれてる曲とかあったりしたんだけど、〈行き切ってるほうが大事だよね〉みたいな感じになったし」(椎名)。

「ここまで〈勢い〉を入れる作業は初めてだったりして、新鮮でしたよね。〈衝動〉みたいなものが甦った感じはありますね」(晝海)。

「4日で17曲も録ったんですよ。そんなのやったことないっすよ。これはヤバイんじゃないかと思うことしきりでしたね」(刄田綴色)。

 東京事変が活動宣言時に提唱していた〈演りっぱなしの音楽〉〈平均的な体温でできる音楽〉。それはあまりにも愛おしく、ホットなものだった。

PROFILE

東京事変
椎名林檎(シーナリンゴ:声弦)を中心に今年結成させたバンド。メンバーは椎名純平や中島美嘉などのレコーディング/ライヴをサポートしている刃田綴色(ハタトシキ:太鼓)、PE'Zのキーボードを担当しているヒイズミマサユ機ことH是都M(エイチ ゼット エム:鍵盤)、椎名林檎、スピッツ、平井堅などのプロデュースを手掛ける亀井誠治(カメイセーヂ:四弦)、ギタリスト晝海幹音(ヒラマミキオ:六弦)の5人組。今年の〈フジロック〉〈SUNSET LIVE2004〉などでライヴを披露した後、今年9月にシングル“群青日和”を発表して本格的に始動する。10月にはセカンド・シングル“遭難”をリリース。このたびファースト・アルバム『教育』(東芝EMI)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年11月25日 13:00

更新: 2004年12月16日 18:25

ソース: 『bounce』 260号(2004/11/25)

文/久保田 泰平