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インタビュー

MAMALAID RAG


 例えば『喫茶ロックnow』へ楽曲が収録されたということを指して、いわゆる〈フォーキー〉なサウンドを思い浮かべる人もいるかも知れないが、MAMALAID RAGの音楽にドメスティックなフォークの要素はほとんど入っていない。バッファロー・スプリングフィールドやザ・バンド、オールマン・ブラザーズ・バンドなどの60~70年代のアメリカン・ミュージックが持っていたダイナミズムとタイム感を基調にしながら、その確かなプレイヤビリティーはジャズやボサノヴァへの親和性すら見せるもので、ファースト・アルバム『MAMALAID RAG』から聴こえるその豊かで洗練されたアンサンブルの妙にはシビれっぱなし。

「曲が求めているところをいちばん大事にしてアンサンブルを組み立てるっていうやり方が僕らに合ってるっていうか。今作の“感情”っていう曲は弾き語りなんですけど、その曲はそれがいちばんよかったから僕らは演奏しないとか。前は自分の楽器に対するエゴがあったというか、例えば〈こういうフィルを入れたい〉とか。やっぱりそういうプレイヤー志向みたいなとこは強かったんですけど、最近は全体を見るようになった。曲を聴いてからのアンサンブルとしての自分をまず考える」(江口直樹)。

 ベースの江口がそう語るように、〈イイ曲〉に向かってすべての楽器が鳴らされるアンサンブルの主役は、キーボードやストリングスなどの音色であり、ギター、ベース、ドラムという要素にこだわるようなバンド幻想は皆無である(でも聴こえてくるのは紛れもなく〈バンド・サウンド〉だったりするから不思議!)。

「僕が初めてギターをあんまり弾かなかったんで、それがいちばん大きかった。曲作る時から鍵盤で作ったりするほうが多いんです。ギター以外の楽器を使うようになってようやくヘンな縛りから解放されて。それまではとにかくギターがまず入ってて、それからプラス・アルファっていう考え方だったんですけど、いまはアレンジによってはもうギターいらないと思えばいらないわけで(笑)。僕はいまプレイヤーっていうよりは、アレンジャー、プロデューサーっていうほうの意識が強いんで、その辺は前とかなり違いますね」(田中拡邦)。

 では、ソングライターとしての田中はどうだろう? その手さばきは23歳とは思えない成熟を見せており、淡々と紡がれているようでいてその実とてつもなく抑揚に溢れた旋律は、ティン・パン・アレーやはっぴいえんどなどを想起させるものだ。高校時代にビートルズに出会ってからのち、バンドという共同体への憧れを持ちながら、様々な音楽との出会いを通して自らの方向性を定めていった田中の軌跡が全10曲のなかに封じ込められている。

「好きな作品とかやりたいこととかにつながってくるんですけど、もっと自由になりたいっていう気持ちがどんどん大きくなってますね。このアルバムっていうのはようやく遊べるようになってきたっていうものだと思うんです。これまではあんまり遊ぶ余裕はなかったけど、それがようやくできたっていう」(田中)。

 午前中の澄んだ空気、静かで淀みのない時間に曲が生まれることが多いという田中の言葉どおり、MAMALAID RAGの世界の底流には極めて純度の高い〈生まれたての歌〉というべきものが流れている。田中拡邦のこれからのソングライター人生に、MAMALAID RAGがこれからも紡ぎ続けるであろう素晴らしいアンサンブルに、多くの幸あらんことを願って筆を置くことにしよう。

PROFILE

95年、佐賀にて中学の同級生であった田中拡邦(ヴォーカル/ギター)と江口直樹(ベース)によって結成。当時はビートルズのコピーを中心にしていたという。96年、山田潤一郎(ドラムス)が加わって現在の編成に。98年に上京後、渋谷、下北沢を中心にライヴ活動を展開し、徐々に認知を高めていく。2002年1月、コンピレーション『喫茶ロックnow』に“春雨道中”が収録され、耳の早いリスナーの間で静かな話題を呼ぶ。同年3月、4曲入りミニ・アルバム『春雨道中』によってデビュー。シングル“目抜き通り” “夜汽車”を経て、9月26日に待望のファースト・フル・アルバム『MAMALAID RAG』(ソニー)がリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年09月26日 13:00

更新: 2003年03月10日 12:00

ソース: 『bounce』 236号(2002/9/25)

文/内田 暁男