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地上波放送60周年!令和にスーツアクター・古谷敏から明かされる「ウルトラマン」シリーズ制作現場の裏側

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2026年に地上波での放送60周年を迎える、特撮シリーズ「ウルトラマン」。世代を超えて子どもたちを虜にし続けてきた作品は、どのように作られてきたのか。シリーズでウルトラマンのスーツアクターとして活躍した古谷敏は、著書「60年目のスペシウム光線」で制作の舞台裏を明かした。

●驚くほど過酷だった“ケムール人”としての撮影現場

古谷が“ウルトラ”シリーズのスーツアクターを初めて務めたのは、1966年。「ウルトラマン」の生みの親のひとりである金城哲夫が手がけた、「ウルトラQ」という特撮番組に出てくる“ケムール人”役だった。

当時、映画俳優としてすでにセリフ付きの役をもらいはじめていた古谷。オファーの話を持ってきた知人から「なんとか」と頼み込まれ、渋々スーツアクターとしての出演を承諾したという。ところがケムール人の衣装を身につけてみると、いきなり古谷を驚かせる事態が発生した。

サイズがピッタリなケムール人のぬいぐるみの中に入り、次に電気的な仕掛けが埋め込まれた頭部をかぶる。
なんだ、このケムール人の頭は!
重い!
重いなんてもんじゃない!
次第に首が重さに耐えきれず、痛くなってきました。それだけならまだしも、視界が悪く、外の音も聞こえない。だんだんとゴムが体を締め付けてくるような感覚に襲われ、息も荒くなってきた。

サイズがピッタリのせいで、体を自由に動かせる余裕がまったくなく、ゴムが張り付いているような状態だったのにもかかわらず、スタジオ内を全速力で走らされたり。そのせいで息が上がってしまい、ケムール人としての撮影が終了したとき、僕はその場にヘナヘナと座り込んでしまったほどでした。 (※注)

●「ウルトラマン」の運命を決めた古谷と金城の会話

ケムール人としての撮影があまりにも過酷だったためか、もう二度とスーツアクトはやらないと決心した古谷。しかし、再び彼のもとへ「ウルトラQ」への出演オファーが届く。一度は断ろうと思ったものの、今回は古谷が別現場でお世話になったというスタッフからの頼み。結局断ることはできず、海底原人“ラゴン”役を担当することになった。

ただし、撮影現場はやはり過酷。加えて、撮影後に海水などで濡れた体を拭くためのタオルや、着替えの下着などはスタッフ側から一切用意されていなかった。

僕はなぜ、こんな惨めな扱いを受けなければいけないのか。ぬいぐるみを着ていても、顔を出している他の出演者と同じ役者じゃないか。なのに、タオルひとつ、満足に用意されていないなんて……。 (※注)

スーツアクターとしての仕事や現場での扱いに憤りを感じていた古谷に対し、今度は“ウルトラマン”役での出演依頼が。オファーを受けたあとにメイン脚本家の金城と話をする機会を得た彼は、思い切ってスーツアクターへの対応改善や撮影現場の環境整備を打診してみることにした。

話を聞いた金城は、古谷の主張を拒否することなく承諾。「ビンちゃん、いい話だよ。わかったよ、今度の会議でみんなに話します」という言葉もあったという。そして古谷の直訴ののち、実際に現場での待遇は大きく変化。彼の要求のほとんどに、金城は応えてくれた。

今から思うと、僕とウルトラマンの運命は、この数分間の会話で決したといっても過言ではありません。 (※注)

●ウルトラマンの葛藤を表した見事な感情表現

さまざまな経験をしながらも、ウルトラマン役のスーツアクトに取り組みはじめた古谷。作中で彼が見せたスーツアクトにおいて特筆すべき点のひとつが、些細な感情表現である。

例えば第20話『恐怖のルート87』では、ひき逃げ事故で犠牲になった少年の無念さを背負った怪獣“ヒドラ”が登場。相対したウルトラマンは逃げるヒドラに向けてスペシウム光線を撃とうとするが、亡くなった少年の想いがよぎり躊躇ってしまう。葛藤を抱いたウルトラマンの複雑な心情を、古谷はスペシウム光線を出そうとする左手の小指をわずかに震わせることで表現した。

ヒドラが空の彼方に飛び去ったとき、ウルトラマンは祈っていたと思います。少年の魂の安らぎを。その祈りは、ときにスペシウム光線よりも強い力を発揮するのではないか。

「ウルトラマン」シリーズファン必見の裏話が詰まった、書籍「60年目のスペシウム光線」。この機会にぜひ手に取ってみてほしい。

(※注)古谷敏、やくみつる、佐々木徹「60年目のスペシウム光線」より引用

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タグ : レビュー・コラム

掲載: 2025年11月25日 10:00