注目アイテム詳細

【OMEGA POINT】一柳慧:ピアノ音楽、アナログテレビに捧ぐ

OMEGA POINT

“オメガ ポイント”レーベルより6月新譜が2タイトル。
まず、河合拓始による一柳慧:ピアノ音楽。59~61年に作曲された7曲のピアノ曲をまとめて収録した画期的な1枚。
松岡亮 (=VELTZ)による「アナログテレビに捧ぐ」も同時発売。

 

一柳慧:ピアノ音楽[OPX-011]

ジョン・ケージの思想を受け継いで作曲された一柳慧の初期代表作「ピアノ音楽」。驚くべきことにこれまで、同時演奏など特殊な方法ではなく、全曲をまとめて演奏・録音されたことがなかった。今回演奏した河合拓始は、即興演奏を長くやってきたが、近年は現代曲を弾くことが多い。彼はこの作品によって拡張されたピアノという「音響装置」に、いわゆるクラシック畑のピアニストには決してできない鋭い切り口で対峙した。この録音は、日本の実験音楽黎明期の古典の再演などではなく、時代を超えて輝きを増し続ける問題作に、新しい生命が吹き込まれた記録なのである。一柳氏本人も絶賛の快演!

 

OMEGA POINT

 

作品について 一柳慧

《ピアノ音楽 第1~第7》は、1959年から61年にかけて作曲した7曲のピアノ曲である。曲は全て、グラフィック・スコア(第1、第2、第5、第7)とインストラクションのみ(第3、第4、第6)による作品で、五線譜は第1の一部で部分的に使われている以外は、一切使用されていない。その点では、大体同時期に作曲した弦楽器のための《スタンザス》や《弦楽器のために》、《電気メトロノームのための音楽》や《デュエット》などと共通していると言えるだろう。初演は第2がニューヨークのリヴィング・シアターでデヴィッド・テュードアによって行われ、第5が高橋悠治、第4、第6、第7は私自身が公開初演した。ディスク化は第5が高橋悠治によって1960年代末に行われて以来いくつか例はあるが、今回初めて全曲がまとめて陽の目を見る事になった。
河合拓始氏の多彩な奏法や、音質を熟慮し、空間性を生かした解釈に基づくグラフィック・スコアの演奏に対して心から敬意を表したい。特に電子音を使わず、楽音から噪音や具体音までの全ての音を生ま音によって発生させた演奏は、テュードア亡き後のこの種の演奏としては特筆に値しよう。

各曲の解説と今回の演奏について 河合拓始

私は、長く即興演奏中心の活動をした後、(20歳代に行なっていた)楽譜のある現代音楽演奏に2009年頃から再び取り組みはじめた。その当初から図形楽譜の演奏は目標のひとつで、即興演奏で培った経験を活かせるのではないかと考えていた。なかでも一柳慧氏の《ピアノ音楽》シリーズはまずもって演奏したい楽曲群だった。2012年になって、東京・三軒茶屋のスペース「KEN」でその全曲を初めて演奏するコンサートを開催することができた。会場と私の共催で10月27日に行なった《河合拓始ピアノソロコンサート at KEN vol.1「一柳慧:ピアノ音楽(1959~61)全曲演奏会」》で、これはそのライブ録音である。

このディスクでは全7曲を作曲順に並べているが、コンサートでは前半に第1、第2、第4、第5の順で演奏した後、休憩。後半は、私が一柳氏にインタビューするトークの後、第7、第6、第3の順で演奏した。演奏順に聴いていただくのも、コンサートの緊張感を味わうには一興かもしれない。楽譜の出版はペータースから第2、第3、第4、第7が出版されているが、第5、第6は未出版。第1については下記を参照されたい。
以下は、各曲の解説と、この演奏での使用道具などである。

track 1:《ピアノ音楽 第1》(1959年9月ニューヨークで作曲)
1952年からアメリカ合衆国に留学していた一柳氏は1959年にジョン・ケージに会う機会を得、その前夜に作曲したのがこの曲である由。この後、ケージやデヴィッド・テュードアらに触発されて、1961年に帰国するまで活動を共にすることになった。当初、自筆譜は失われたとのことで、コンサートではこの曲を除く6曲を演奏する予定だった。ところが演奏会間近になって、音楽研究者の川崎弘二氏が、当時の「音楽芸術」誌(1961年2月号)に付録として楽譜が掲載されていると知らせてくれた。一柳氏も演奏を快諾してくれたので、急遽プログラムに加えた。川崎氏のご教示にこの場を借りて御礼申し上げる。
作品は任意の順で演奏される5つの断片(A,B,C,D,E)からなる。五線譜も援用されるが、いずれも様々な手法により不確定な楽譜となっている。一部で内部奏法(ピツィカート、ミュート)を含む。この演奏では、D,B,A,C,Eの順で演奏している。

track 2:《ピアノ音楽 第2》(1959年12月作曲)
楽譜は4枚の正方形の紙で、各紙には幾つかの図形が記されている。ひとつの図形は音数・音域・演奏法(通常の鍵盤奏法か内部奏法かその混合か)を詳しく指示しているが、具体的な音高や音量やどのような内部奏法を採るかは演奏者にまかされている。各紙を行き来する手順も示されているが、それは毎回の演奏で異なったものになる。内部奏法として、指によるピツィカートやミュート、指爪での弦擦りのほか、料理用フライ返し(合成樹脂)や大太鼓用マレットなどを使っている。

track 3:《ピアノ音楽 第3》(1960年3月作曲)第1楽章
track 4:《ピアノ音楽 第3》第2楽章
楽譜はことばの指示のみ。音源を以下の4種に分ける:鍵盤(単音、集合音、クラスター、グリッサンド、トリル等)、弦(ピツィカート、擦り、叩き、触り、グリッサンド等)、ノイズ(鍵盤・弦以外の音)、鍵盤と弦の複合(プレパレーション、ミュート等)。2つの楽章から成り、第1楽章では、1種類の音源からの1音と、1種類の音源からの複数音を混合して演奏。第2楽章では、複数の音源からのそれぞれ1個の音と、複数の音源からのそれぞれ複数の音を混合して演奏。音高・音量・音長・ペダル使用は演奏者に任される。
7作品中、「即興演奏」の度合いがある意味最も高い。この演奏で使用したのは、木片、金属棒、ワイヤーブラシ、紙、パスタ掬い(木製)、調理用小撹拌器(ステンレス)、ボルトと割り箸によるプレパレーション、など。

track 5:《ピアノ音楽 第4》(1960年12月作曲)
この曲もことばの指示のみで、アタックなしの持続音と沈黙だけで演奏せよと書かれている。次の第5と対をなし、どちらもデヴィッド・テュードアのためにとの献辞を持つ。この演奏では、ピアノの低音弦に結わえつけた木綿糸を、弓で擦っている。

track 6:《ピアノ音楽 第5》(1960年12月作曲)
アタックだけを使うと指示があり、使用する"音源"(第三と同様)の数とその音量が指定されている。全体は9分間で、発音するタイミングが秒数で示される。なお、冒頭は無音状態で、最初の発音があるのは48秒目である。この演奏では、各種マレットや、金属ボウル、木製ボウル、長い木の棒などを使用している。

track 7:《ピアノ音楽 第6》(1961年1月作曲)
クラスターとグリッサンドにより、できるだけ速く大音量で、身体的あるいは精神的に疲れ果てるまで演奏せよということばの指示のみである。テリー・ライリーのためにと献辞がある。

track 8:《ピアノ音楽 第7》(1961年3月作曲)
楽譜は上から下に縦に読む9枚の紙から成る。図形により音域とタイミングと演奏法(白鍵か黒鍵かその混合か、また鍵盤演奏か無音で押さえてハーモニクスを得るか)が指示されており、鍵盤以外のピアノ奏法とピアノ以外の音源の使用も求められる。9枚の楽譜を組み合わせて演奏したり、天地を逆に置いた演奏を加えることも可能だが、この演奏では最もシンプルに正置した楽譜9枚を順に演奏している。ピアノ以外に使用したのは、鍵盤ハーモニカ、小型キーボード(カシオ)、ラジオ、ホイッスル、スライド・ホイッスル、調理用ミキサー、スーパーボール、でんでん太鼓、水(ペットボトル入り)、声、各種マレットなど。

【河合拓始 プロフィール】
1963年神戸市生まれ。ピアニスト、即興演奏家、作曲家。京都大学卒業後、1991年東京芸術大学大学院修士課程(音楽学専攻)修了。即興音楽家としてソロやアンサンブルのほか様々なジャンルのアーティストと共働する。1998年頃から作曲も行なう。近年は現代音楽作品に再び取り組み、高橋悠治、松平頼暁、藤枝守、平石博一、ケージ、フェルドマン、シェルシなどを演奏する。2008年と2012年に欧州演奏旅行。2011年ニューヨークでのトイピアノ・フェスティバルに招聘参加。2012年1月に、長年拠点としてきた東京から福岡県糸島市に居を移し、九州一円・関西・東京で精力的にコンサートを行っている。

アナログテレビに捧ぐ[OPX-012]/VELTZ

 

OMEGA POINT

 

【ライナーノート 松岡亮 (=VELTZ)】
廃棄物を利用して音楽/非音楽、またコラージュやアッサンブラージュなどの作品制作を行うということは、今まで沢山の偉人がやってきたことで、今現在も世に溢れていることだと思うので、何も声高に主張することでもないように思う。
僕自身が廃棄物に興味を持ち出して制作を始めたのはここ5年間くらいのことで、それまではごく普通に楽器を手にし、あくまでリスナーとして実験音楽に傾倒していた。フルクサスやサウンドアート、メディアアートなどの音源との出会いによって音楽/非音楽の境目が無くなり、音そのものの持つ素材感が好きになった。中でも金属的な音に惹かれたのだが、理由を聞かれたらはっきりとは回答出来ない。幼少の頃からゴツゴツした質感のモノは好きだったので、その延長でしかないのかもしれない。
アナログテレビに着目したきっかけは、地上波デジタルに移行するにあたり廃棄されていたテレビへの、オマージュ的な再利用の観点だが、今現在は自分にとっての面白い音具として継続して使用し、インスタレーション/ライブを使い分けて日々変化を重ねている。この音盤には他にもカセットレコーダー、VHSビデオデッキなどを使用したトラックが含まれているが、いずれも演奏したわけではなく、偶然そうなっていた「結果」を採取したものとなっている。(アナログテレビのトラックに関しては、若干の電気的な操作を行なっているものも含む。)
自分自身には、これが実験音楽というカテゴライズが合うのかどうか分からない。敢えていうなら「発見」音楽なのかもしれないとも思う。はっきりと分かるのは、自分が生きてきた時代に存在し、生活に有って当たり前だった家電などになにがしかの魅力を感じること、それらが発する音や造形自体から溢れる魅力から逃れられないということである。

【収録内容】
track 1-4_アナログテレビに捧ぐ
track 1_第1楽章:トランジスタテレビの光量のレベル可変に伴う音の変化。あるポイントで止めるとパルス・ビートをきざみ出す。
track 2_第2楽章:真空管テレビのスイッチを入れただけで、他一切の操作無し。
track 3_第3楽章:トランジスタテレビの、光量のレベル可変時の微量な電気量の変化によりピッチ変化が発生、それを利用してリアルタイムにフレーズのループのような操作をした。
track 4_第4楽章:トランジスタテレビの横にビデオ・トランスミッターを設置し電源を入れたところ、レトロ電子音楽のようなサウンドが発生。緩やかにピッチがスイープする電子音のようなサウンドも全て自然発生したもの。

track 5_カセット・テープレコーダーに捧ぐ
あらかじめ異なるピッチ調整をそれぞれに行ったポータブルカセットプレーヤー18台による演奏。カセットテープ自体は使用せず、デッキ本体が発するモーター音のみのアンサンブル。時間経過により更に微細なピッチ変化が起こっている。

track 6-7_ビデオ・テープレコーダーに捧ぐ
モーターが弱った廃棄寸前のVHSデッキ3台を使用したアンサンブル、1台または3台による演奏。駆動自体が不安定なためモーター音が音痴な歌のように聴こえる。人為的な操作は一切行っていない。
track 6_1台バージョン
track 7_3台バージョン

track 8_6枚の鉄板のためのポエム - ラ・モンテ・ヤングに捧ぐ
6つの金属ジャンクを同時に引きずったパフォーマンスで、家電製品ノイズへのアプローチとして収録した。ラ・モンテ・ヤングの初期作品「椅子、テーブル、ベンチのためのポエム」のイメージで行われた。

【プロフィール】
1974年青森県生まれ。2008年VLZ PRODUKT設立。自身および様々な関係アーティスト(美川俊治、村井啓哲など)の制作を行う。The New Blockadersのジャパン・トリビュートに参加。ライブ活動も多数行う。2011年10月にアナログテレビを使ったインスタレーションを東京・現代ハイツにて公開。2012年には新潟市美術館での靉嘔展の作品制作に素材提供するなど、活動は広がっている。

カテゴリ : ニューリリース

掲載: 2013年06月21日 15:53

更新: 2013年06月21日 16:59