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特集

Inner City Blues

カテゴリ : スペシャル 

掲載: 2010年09月22日 17:59

ソース: bounce 325号 (2010年9月25日発行)

文/林 剛

 

ケムが新作で見せたアーバン・ブルース

 

 

ジョン・レジェンドやラファエル・サディークらとはアプローチこそ違うが、ジャジーなR&Bを得意とするケムもまた、クラシック・ソウルのグルーヴを再生して現代のソウルを聴かせるシンガー・ソングライターだ。

手売りの自主制作盤『Kemistry』がモータウンに買い上げられ、2003年にメジャー・デビュー。シングル“Love Calls”がアダルト・コンテンポラリー系のラジオ局で話題になり、続いて2005年に発表したセカンド・アルバム『Album II』からのセクシーなスロウ・ジャム“I Can't Stop Loving You”のヒットで、USでの人気は決定的なものとなった。自身の弾く鍵盤のジャジーでメロウな音色と、時にスキャットを交えるなどしたヒョロっとした歌声。〈現代版アル・ジャロウ〉などとも言われるフュージョン・タッチの音楽は、日本のR&Bファンにはあまりピンとこないようだが、本国のブラック・コミュニティーからの支持は絶大だ。そうした支持のされ方は、シンプルで(良い意味で)変化のないサウンドも含めてメイズに近い。実際、2作目に収録の“Into You”はメイズ風のミディアムだったし、そのことを裏付けるかのように、昨年は『An All Star Tribute To Maze featuring Frankie Beverly』でメイズの“Golden Time Of Day”を歌ってもいた。

そして今夏、5年ぶりの新作『Intimacy: Album III』をリリース。内容は、基本的にはこれまでのジャジー・メロウなムードを引き継いでいるが、制作面や精神面に余裕ができたのか、密室感があった前2作に比べると幾分開放的で、ボッサ調の曲をやったり、女性シンガーとデュエットするなど、僅かながら音楽性に幅広さが加わっている。それはレックス・ライダウトやフィリーのヴェテラン・ギタリストであるランディ・バウランドといった腕利きの参加も影響しているのかもしれない。ラテン風リズムのアップ“Golden Days”では、ケム同様ブラック・コミュニティーで絶大な支持を得るジル・スコットが情熱的なスポークン・ワードを披露。この必然的とも言える組み合わせに感嘆の声をあげたファンも少なくないはずだ。

ナッシュヴィルで生まれ、デトロイトで育ったケム。5歳からピアノを始めたという彼だが、少年時代には窃盗罪に問われ、その後、荒廃するデトロイトの地でホームレスとなり、麻薬中毒にも陥ったという。愛に飢える生活を送っていたのだ。しかし、そうした体験を経たからこそ、ケムの歌はスピリチュアルな響きを持ち、都会のゲットーに暮らす黒人たちを熱狂させるのだろう。実際ケムは地元でコミュニティー活動を行い、自身の体験をもとに同胞を鼓舞しているというが、今回の新作にもそんな効用を秘めているようだ。

リード曲となったのは“Why Would You Stay”。いかにもケムらしいラヴ・バラードだ。ライオネル・リッチーに通じる切なさとスケールの大きさも感じさせるが、それはストリングスの壮麗な響きが作用しているのかもしれない。アレンジを手掛けたのはデイヴィッド・ヴァン・デピット。かつてマーヴィン・ゲイ『What's Going On』に得も言われぬ昂揚をもたらしたあの名匠だ。その彼が、約40年の時を超えて現在のデトロイトを代表するR&Bシンガーのバックを演出する。美しい話ではないか。前作でスティーヴィ・ワンダーのハーモニカをさりげなくフィーチャーしていたケムがふたたび示したモータウンへの愛。ケムにとってマーヴィンのあの大作は、彼の人生におけるサウンドトラックでもあるのだろう。そして彼もまた、愛のゆくえを描きながら、デトロイトのインナー・シティー・ブルースを歌い上げている。〈Wake Up!〉を唱える歌い人はここにもいるのだ。

 

▼ケムの過去作を紹介。

左から、2002年作『Kemistry』、2005年作『Album II』(共にMotown)

インタビュー

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