カテゴリ : Exotic Grammar
掲載: 2010年06月28日 19:21
更新: 2010年06月28日 19:57
interiew&text:小沼純一(文芸・音楽批評家/早稲田大学教授)
小沼:武満徹に≪ノヴェンバー・ステップス≫という、琵琶と尺八、オーケストラのための有名になった作品がありますけれど、あの曲をトロントで録音するさまにたちあった林光さんは、二つの和楽器だけの「カデンツァ」の部分で、あれは真剣勝負なんだ、ということを書いていたんです。
津村:楽譜のとおりにする、というのとはやはり違うんですね。ある程度の方向性があって、そのなかで揺れる、とでも言いますか。そのなかで一致点を見出す。制作者として、きっちり決めるのではなく、共同作業をする他のプレーヤーたちに方向性を伝える。囃子の人たちのほうが音楽的にはもっと持っている引き出しがあって、それを生かしてもらうようにする。コンテンツまでこっちがいろいろ細かく言うと、逆に、かたまってしまう。

小沼:映画には舞台をつくってゆくシーンがあります。能を全然知らないひとがみても、へえとおもうところがあるでしょう。橋懸かりにつける松の大きさを変えるとか、能舞台の雨戸を開け、最後に閉める、とか。何でもない無造作な作業のなかで舞台が次第にできあがってくる。ごくふつうの民家とかも、なかには映ってきたりもします。作業はまた、ふつうの町のひとの日常のなかからもでてくるわけですね。ただ神聖なことをやっているのではない。日常の延長上でありながら、だんだんと変わってゆき、能というべつの時間=空間になる。そうしたあいだに、津村さんが船の上で話しているときの波や風の音、舞台を準備しているときの蝉しぐれ、といった音のすばらしさがあります。
三宅:あれは「整音」をしてくれた種子田郷さんのおかげでもあります。
小沼:かがり火がはぜる音とか、セミがじじじ、となく音とか。
三宅:野外ならではのものですね。
津村:人間と自然の境界に生きている存在なんですね、トキは。
小沼:それが舞台、というより、このプロセス、つまりはドキュメンタリーにも反映しています。もうひとつおもしろいのは、「朱鷺島」といいながら、一度もトキはでてこない。実物ももちろん、アイコンもない。
三宅:情報の要素はつねに排除したいというのはあります。記号性みたいなのは徹底して排除する、というのは私のほかの作品でもあるわけです。もうひとつ、創作能をつくってゆく打合せなどでは、参加している出演者の方々とできるだけおなじ目線でそのうち合わせに参加しているように撮影する。クルーでやるんじゃなく、ひとりっきりでカメラをもって。
津村:ぼくなんか、邪魔だな、なんておもっちゃうんですよね(笑)。
*
小沼:ドキュメンタリーっていうのは、ああ、ここにあるものに自分は接していない、出会い損ねている、もうみられないんだ、そこに立ち会ってはいないんだ、とおもわせられるものです。この舞台に接したひとはいるし、それは体験としてあるけれど。でも、ここにこのように痕跡としてはのこっている。
津村:『トキ』はこれまで三回やっているわけですけれど、ああいうつくってゆくプロセスは一回きりですよね。それきりなのです。
三宅:そこにこそ、一回性ならではの、ある手探り感というのがあるんですね。
映画『朱鷺島 創作能「トキ」の誕生』
観世流能楽師・津村禮次郎は、30年来佐渡に通い、学生達への稽古や薪能公演を行ってきた。2006年、佐渡市から公演の依頼が舞い込み、津村はトキが再び佐渡の空を飛翔してほしいという願いを込めた「創作能」で応えることに決めた。佐渡の子ども達から寄せられた詩をもとに台本を作り上げ、佐渡を拠点に活動する太鼓集団「鼓動」のメンバーに参加してもらうことで、既存の能の枠を越えた新しい芸能・創作能「トキ」がここに誕生する。
監督・撮影・編集: 三宅流 整音: 種子田郷 出演: 津村禮次郎(観世流能楽 師)/安田登(下掛宝生流能楽師)/ 藤本吉利(鼓童)/ 藤本容子、小島千絵 子、金城光枝(花結)/ 松田弘之(笛)/他
配給: 『朱鷺島』上映委員会 (2007年 日本)
◎7/31(土)〜8/20(金)、ポレポレ東中野にて連日午前10:30〜上映!
http://www.tokijima.com/
津村禮次郎(つむら・れいじろう)写真右
1942年生まれ。観世流能楽師。観世流緑泉会代表。重要無形文化財(能楽総合)保持者。女流能楽師のパイオニアである津村紀三子に師事。1979年小金井薪能を作家林望氏等と設立、2010年で32回目を迎える。古典能の公演のほか新作能、創作的活動も多く、「かぐや姫」「オセロー」「トマス・ベケット」「仲麻呂」などを公演。イギリス、ベルギー、スペイン、シンガポール、スウエーデン、ノルウェーなど海外公演も多数。他ジャンルのアーテイストとのコラボレーションも多く、現代舞踊とのコラボレーションではダンサーの森山開次、イタリア人舞踊家のアレッシオ・シルベストリンらと作品制作、公演活動を行う。また、2005年には愛知万博、ベネチア・ビエンナーレ ダンス部門にも招聘される。
三宅流(みやけ・ながる)写真左
1974年生まれ。映画監督。多摩美術大学卒業。初期は実験的な映像作品が多く、『蝕旋律』、『白日』はイメージフォーラムフェスティバル、モントリオール国際映画祭などで受賞、招待上映され、国内外10カ国以上で上映される。22歳の面打師・新井達矢を描いたドキュメンタリー『面打/men-uchi』(2006)は、ゆふいん文化・記録映画祭で松川賞を受賞し東京・大阪での劇場公開では大きな話題となる。岩手県の民俗芸能を追った最新作『究竟の地−岩崎鬼剣舞の一年』(2008)は山形国際ドキュメンタリー映画祭、恵比寿映像祭などに招待され好評を博している。
寄稿者プロフィール
小沼純一(こぬま・じゅんいち)
音楽・文芸批評家。早稲田大学教授。著書に『魅せられた身体』(青土社)『バッハ「ゴルトベルク変奏曲」世界・音楽・メディア』(みすず書房)『バカラック、ルグラン、ジョビン 愛すべき音楽家たちの贈り物』(平凡社)など。
NERDHEAD 『CRUISE WITH YOU』
2012/05/23
ヒットメイカーが才色兼備の女性シンガーと組んだ企画盤!
石毛輝
2012/05/16
穏やかなパーソナリティーを投影した、ソロ2作目が登場!!
web exclusive
Caravan
2012/05/23
Y・ISHIDAのテクノ警察
生きる伝説、DJハーヴィーの最新ミックスにテクノを見た!
2012/05/22