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特集

松平敬(3)

カテゴリ : Exotic Grammar 

掲載: 2010年03月26日 22:45

更新: 2010年03月29日 22:06

text : 池田敏弘(新宿店)

録音技術に於けるコンテクスト

松平の作品は録音の面から見てもクラシックの分野に於いては非常に特異な例だろう。というのもクラシックの世界で録音とは、実際の演奏の再現という認識が非常に強い。だがこの作品ではそもそもが多重録音であるし、編集などのポスト・プロダクションを経た後で初めて体験され得るものとなっている。(先ほど触れたクラシックリスナーの感じる違和感とはこの辺りも大きいだろう)

ポップスの世界でははるか昔から録音の概念はそこだけに存在する生演奏とは全く違う存在としてある。(クラシックの世界で録音の特異性に注視していた例はグールドなどに限られているだろう)ビートルズやマイルス・ディビスの行ったスタジオワークに強い関心を寄せるという松平の、本作のコンセプトの源泉はこの辺りにもある様だ。この作品に於いての録音の在り方は明らかに後者に寄っている。


松平敬が教えてくれる新しい<声>の主体性の所存の可能性

この作品に収められている様々な時代の作品は、当然1人1声部を前提に作曲されており、人の数だけ声質も違えば、それぞれ意思も持って楽譜を解釈しているのだからそこに揺らぎが生まれるはずで、作曲家もそれを想定している訳だが、この作品では(なんせ1人で歌っているので)その作曲家の意図からは自由に振舞っている。

その点では<声>の複数ある主体性を単数に置き換えるシフトがここには認められるだろう。松平がそれぞれの声部ごとに別の時間に発した様々な声は現実では重なりあう事は無く、解釈もぶれない。それをPC上で組み立てている訳だから、同じ楽譜を演奏しているとは言え、全くもって印象が違う。これは録音された世界でしか再現出来ないものだ。再生ボタンを押してスピーカーから初めて姿を現す音楽だ。様々な時代の作曲家の<声>への意思が1枚の音盤上で出会い、バーチャルに多重録音される構造は非常にSF的とでも言おうか、もしかすると13世紀の作曲家が夢想していた事でもあったかもしれない。

<声>の立脚する新しいあり方、今生まれいずる<声>について、松平は多くの示唆を与えてくれる。また、各々にフィードバックするのであれば松平の<声>からは潜在的な意味(=コノテーション)から如何に自由に飛翔出来るか?という投げ掛けも聴こえてくる。

『MONO=POLI(モノ=ポリ)』
松平敬(歌&多重録音)
[ENZO Recordings EZCD10006] 2/20発売
【収録曲】
    1.    作者不詳(イギリス):夏のカノン(1260年頃)
    2.    作者不詳:アレ〈歌え〉ルヤ(13世紀)
    3.    作者不詳(イギリス):ねんころりん、私は可愛らしい、上品な姿をみた(14-15世紀)
    4.    作者不詳:ローマは喜び歓喜の声をあげよ(12-13世紀)
    5.    ダンスタブル(ca.1390-1453):聖なるマリア
    6-8.    ジェズアルド(ca.1560-1613):マドリガル曲集第6巻より(1611年出版)
        麗しき人よ、あなたが去ってしまうのなら
        ああ、なんとむなしく、私はため息をつくのか
        私は、ただ呼吸する
    9.    J.S.バッハ(1685-1750):8声のカノン BWV 1072(1754年出版)
    10.    モーツァルト(1756-1791):心より愛します KV 348(382g)(1782年)
    11.    グリーグ(1843-1907):めでたし、海の星(1893年)
    12.    ストラヴィンスキー(1882-1971):アヴェ・マリア(1934/49年)
    13.    シェーンベルク(1874-1951):《3つの風刺》より 分かれ道にて Op.28-1(1925年)
    14.    ケージ(1912-1992):《居間の音楽》より 昔話(1940年)
    15.    リゲティ(1923-2006):ルクス・エテルナ(1966年)
    16.    松平敬(1971-):モノ=ポリ(2009年)
    17-18.    ブライアーズ(1943-):マドリガル集第2巻より(2002年)
        私は、この地上に天使のような姿を見た
        おお、あてどない歩みよ、おお、うつろいやすく、しかし確固とした思いよ
    19.    ベリオ(1925-2003):もし私が魚なら(2002年)
    20.    ケージ:声のためのソロ24ヴァージョンの同時演奏(1960年)
    21.    シェーンベルク:千年を三度 Op.50A(1949年)
    22-24.    ドビュッシー(1862-1918):シャルル・ドルレアンの3つの歌(1898/1908年)
        I. 神よ!なんたる眼の保養
        II. 太鼓の音が鳴りひびき
        III. 冬よ、御身が憎らしい
    25.    ブラームス(1833-1897):おお、なんとなだらかに(1870年頃)
    26.    パーセル(1659-1695):主よ、わが祈りをききたまえ(1680年頃)
    27.    パレストリーナ(ca.1525-1594):主よ、今こそあなたは
    28.    ジョスカン・デ・プレ(ca.1440-1521):ミサ《ダ・パーチェム》より アニュス・デイ
    29.    作者不詳(スペイン):3人のムーア娘(15-16世紀)
    30.    作者不詳(スペイン):手に手をとって(15-16世紀)
    31.    マショー(ca.1300-1377):我が終わりは我が始まり
【録音】
2009年8月 スタジオ録音    24Bit/96KHz ProTools HD3 Recording System

 

 

 

松平 敬(声、バリトン)

愛媛県宇和島市生。東京芸術大学卒業。同大学院修士課程修了。声楽を高橋大海氏に師事。バッハ「ヨハネ受難曲」、ヘンデル「メサイア」などのオラトリオ、シューマン「詩人の恋」などの歌曲作品に加え、現代声楽曲のレパートリーを幅広く持つ。2000年よりほぼ毎年、ドイツ、キュルテンに於けるシュトックハウゼン講習会へ参加、シュトックハウゼン作品の楽曲分析や正統的な演奏法について学ぶ。これまで3度、同講習会に於けるコンサートに出演、2007年の「シュピラール」の演奏に対してシュトックハウゼン賞を獲得する。2004年、東京において湯浅譲二、クセナキスなど全曲前衛作品ばかりによるリサイタルを開催。その他、全曲シェーンベルク作品によるリサイタル、シューベルト「冬の旅」とケージ「冬の音楽」を組み合わせた演奏会など、独創的な企画が話題を呼んでいる。2009年にはシュトックハウゼンの大作「私は空を散歩する」の日本初演を手がける。声楽家としての活動に加え、作・編曲、合唱指揮、「レコード芸術」誌への執筆活動なども行っている。現在、聖徳大学、文教大学講師、日本声楽アカデミー会員、双子座三重奏団メンバー。今年6月には無伴奏ソロライヴを予定。http://matsudaira-takashi.jp/

寄稿者プロフィール:池田敏弘

入社してもうすぐ丸9年。新宿店にてNEWAGE、AVANT-GARDE、現代音楽などのバイヤーを務めてます。エレクトロニカ、ポスト・クラシカルの僕が選曲・監修したコンピレーション『V.A./SONGS OF SEVEN COLORS』『V.A./VARIATIONS OF SILENCE』(p*dis)もよろしくお願いします。今はK-POPがかなり面白く、シーンをいろいろ追いかけてます。中でもフェイバリットはBROWN EYED GIRLSです。

 

 

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